藍色の愛−4
ロマニはソロモンとしてアーサーに告げた。
世界は終わると。
しかしもしも世界が終わらず、アーサーも旅を続けていたのなら、再びこの世界に来るかもしれないとも言ったそうだ。
『もしすべてがうまくいってしまった場合、僕はずるい結末を迎えているかもから』と言って、タイミングによっては自分とは出会わないとも。
代わりにロマニが確信を持って、アーサーと出会うことになると伝えた人物を、ロマニはこう表した。
『決して僕にはできないことを成し遂げ、消えてしまった昨日のために明日へ向かって走り続ける、愛と希望を担う誰かにさ!』
ロマニは歴史を、愛と希望の物語だと述べた。そう言ってゲーティアを崩壊させて、英霊としての記録も在り方もすべてを投げ打ったのだ。
ロマニは最初から、そう、特異点Fからの帰還後に立香と唯斗にグランドオーダーを託したときから、二人のことをそういう人間だと思ってくれたのだろうか。
もしかしたら唯斗のことはそうでなかったかもしれない。唯斗のスタンスも、ロマニは尊重してくれていたからだ。
言葉が継げなくなった唯斗を見て、アーサーはもっと強く肩を抱き寄せる。
「…君が、レイシフト直前にロマニにきちんと告げただろう。その物語を、自分が繋ぐために戦うんだと」
「……、うん、」
「きっと彼は本当に嬉しかったはずだ。最初の君を知っているから。そして同時に…心から、安堵しただろう。君と藤丸君が最後に人理を受け取ってくれたことに」
「そう、かな…」
「…そうだよ」
青空が歪む。白い雪山と青い晴天との境界がぼやける。
さすがに、冷たい空気によって液体は凍ってしまう。肌に張り付いて痛みが走る前に、唯斗はアーサーに抱きついた。その肩に顔を埋めて目元を隠すと、アーサーは優しく抱き締めてくれた。
「…もっと、優しく、楽に、させてやれたのかな、おれ、もっと、ロマニにしてやれたこと、あったんじゃねぇかな、」
震える喉に、言葉がうまく発せない。アーサーは優しく後頭部を撫でて、柔らかな声で答える。
「君がそう思えるようになったこと自体、彼はとても嬉しかっただろうし、それをきちんと別れる前に伝えただろう。何より、実際にレイシフトして藤丸君を直接支えられる君が同行して、サーヴァントが少ない初期には君が藤丸君を守っていたんだ。彼は君がいてくれて良かったと、心から思っていたはずだ」
「…ッ、うん、ありがとな、アーサー…っ!ロマニのこと、教えてくれて、ありがとう…!」
言わないという選択肢もあっただろうが、アーサーは敢えて話してくれた。それもまた、唯斗のためだ。
それから5分ほど経っただろうか。
しばらくそうしてアーサーの腕の中で気持ちに整理をつけ、目元を拭ってから、体を離す。
きっと立香やマシュはもっと時間がかかる。唯斗もすぐに吹っ切れるわけではないだろうが、彼らほどロマニと一緒にいなかった唯斗にとっては、きっと、もう少し早くに立ち直れる。
いや、その速さなどはどうでもいい。ただ、一緒に乗り越えて前を向けばいいのだろう。
「…、戻ろう。もう、大丈夫だ」
「そっか。きっと、今の君なら大丈夫だ」
「ん、自分でもそう思う」
「…そうか」
アーサーは翡翠を柔らかく緩めてから、唯斗の肩を抱いて一緒に歩き出す。帰還してから、ほぼずっとアーサーは唯斗に触れている。その温もりで、一人じゃないとずっと伝えてくれているのだろう。
そうしてカルデアの建物に戻ると、陽光の差す窓が並ぶ廊下に、見慣れた面々が立っていた。
「っ、あんたら…ふは、マジか、」
目を見張り、唯斗は小さく笑う。そして、その拍子にまた零れたものを隠そうとして、やめた。
エミヤ、サンソン、ディルムッド、ギルガメッシュ、アーラシュ、アキレウス、オジマンディアス、ガウェイン、マーリンの全員がエントランス横の廊下で待ってくれていた。もちろん、並ぶようなことはなく、思い思いの場所で好きに立っているが、全員で迎えてくれたのである。