邪竜百年戦争オルレアンII−9
西にしばらく進むと、まだ生きた人間の気配がする街が見えてきた。破壊された様子はない。かなりスペイン国境まで迫っているアキテーヌの街だ。
街の入り口までくれば、サーヴァント同士で知覚できる範囲にサーヴァントの気配を察知したようだ。
「サーヴァントの反応、一騎です」
「街の様子を見るに、敵性サーヴァントじゃないはずだ。コンタクトを取ろう」
「了解しましたわ唯斗。私が向かいます」
ちょうどマシュから唯斗に通信が入る。右腕の手首につけた通信機に答える。
「こちら雨宮、はぐれサーヴァントとマリーがコンタクトを取ってる」
『よかった。そちらの方は恐らく聖人ゲオルギウスです』
「ガチガチの聖人だな。了解した」
唯斗は通信を切り、ジャンヌとともにゲオルギウスのところに合流した。ブロンズの長い髪をなびかせ、同じくブロンズの鎧を纏った姿をしている。英語名ジョージの元となっている聖人だ。
マリーは隣に立った唯斗に手を向ける。
「こちらは未来から来たマスター、の予備員だったかしら?」
「雨宮唯斗、ここで起きてることを解決しに来たマスターだ。とはいっても彼女たちとは契約してない。そんでこっちが…ルーラーだ」
周囲の人目を見て唯斗はクラス名だけでジャンヌを紹介した。ゲオルギウスも意図をくんで頷く。
「この町もあの邪竜に襲撃されています。私がどうにか退散させましたが、次は不可能でしょう」
「それで避難してるわけか。その邪竜を倒すためにはドラゴンスレイヤーの力が必要なんだが、そのサーヴァントには呪詛がかけられてる。聖人二人がかりで洗礼詠唱して解かなきゃならないんだ。力を貸して欲しい」
「なるほど、事情は理解しました。避難が終わり次第、出発しましょう」
話が早くて助かる。
ゲオルギウスが市民の避難を手伝っているうちに、唯斗は周囲の警戒を続ける。すると、ジャンヌが肩を揺らした。同時にゲオルギウスもこちらにやってくる。
「敵が接近していますね。ワイバーンでしょうか」
「…いえ、これは竜の魔女です。撤退しましょう!今の我々では歯が立ちません!」
しかしゲオルギウスは首を横に振った。まだ市民の避難は完了していない。
「…ここを見捨てることは、あなたの存在意義すら揺らがせるな。聖人ゲオルギウス」
「その通りです」
「あら、ゲオルギウスさんったらおひげまで全部お堅いのね!でもそんなところがとってもキュートだわ!私、感動してしまったみたい」
するとマリーはそう言って、ゲオルギウスの前に進み出た。人々は竜の咆哮が聞こえてきたことで悲鳴を上げて走り出している。
それを一瞬見てから、マリーは凪いだ表情で言った。
「ですので、どうか、その役目を私にお譲りくださいな」
「っ、マリー、」
「私は王妃。市民を守ることは私にとっても大切な使命。そしてあなたには、大局を動かす役目が与えられています。聖人ゲオルギウス、ジャンヌとともに、ドラゴンスレイヤーの呪いを解いてください。マリー・アントワネットの名にかけて、この街は守ってみせますから」
「ま、待ってください!待って、ねえ待って!マリー!一緒に戦いましょう、ひとりではだめでも二人なら…」
ジャンヌは初めて聞くような、必死な声でマリーを止めようとする。しかしマリーは頷かなかった。
「ノン。とっても嬉しいけど、それはだめよジャンヌ。私はきっと、こういうときのために召喚されたの。敵を憎んだり倒したりするんじゃなくて、人々を守る命として呼ばれたのです。今度こそ、大切な人たちを守るために。大切な国を守るために。正しいことを正しく行います」
「マリー…!」
「ゲオルギウス様、それでよろしくて?」
「……あなたが、それでいいのならば。私はこの役割を伏してお譲りいたしましょう」
ひとり残って戦うことを選んだマリー。その選択は正しい。これが最善だ。しかし唯斗は同意するための言葉が言えなかった。
「じゃあ行って、ジャンヌ。ほんの少しだけど、あなたの旗の下で戦えて、光栄の至りだったわ」
「……待っています」
「ええ、すぐ追いつくから」