邪竜百年戦争オルレアンII−10
ジャンヌは納得した。ゲオルギウスも同意している。
自分がすべきことは、確実に二人をジークフリートたちと合流させることだ。
「…エミヤ」
呼びかければ、唯斗の隣にエミヤが現れる。ジャンヌは当然、唯斗にどうするか尋ねようとしていた。
「エミヤ、敵サーヴァントの数は」
「接近中のものは二騎。うち一騎はすぐに到達するが、ジャンヌ・オルタではないな。恐らくあの処刑人だろう」
「分かった。ジャンヌ、ゲオルギウス、先に東へ。俺はマリーと残ってサンソンを倒す。俺はそのあと撤退してマリーにこの場を託す」
ジャンヌは驚いた顔をして、マリーも「だめよ」とすぐに拒否しようとする。しかし、唯斗は食い下がった。ここでジャンヌたちと行動することが最も合理的だが、この選択だって、まだ合理的な範疇に入るだろう。
恐らくジャンヌは、サンソンとマリーを二人にしたくない唯斗の気持ちを理解しているはずだ。ギリギリ、ジャンヌ・オルタと会敵せずにこの町を離脱できることも。
「だめよ唯斗、あなただって私にとって大事な民なんですもの。守るべき国民よ」
「だからこそだろ」
「っ、」
「今回こそ…最後まで味方でいさせて欲しい。俺に流れるフランスの血は4分の1だけだけど、それでも…もう一度、1792年9月21日がやり直せるなら。俺は違う結末があってもいいと思う」
「安心してくれたまえ王妃、マスターは私が必ず守る」
エミヤも状況からその余裕はあると判断したようだ。マリーもこれ以上は無粋と思ったのか、仕方なさそうに笑った。
「…分かりました。私はあれで良かったと思っているわ。でも、そうね、これは2回目ですものね。特異点でくらい、いいかしら」
「私もそう思います、マリー。唯斗、頼みますね。またすぐに」
「あぁ」
ジャンヌとゲオルギウスはすぐに走り出し、街を出て行った。残された唯斗とマリー、エミヤは、小さな広場で処刑人を迎え撃つ。
「…来たのね、サンソン」
「来たとも。処刑には資格がある。する側にも、される側にもだ。僕以外に君を処刑する資格を持つ者はいない」
広場にやってきたサンソンは、大きなギロチンのような大剣を構えながら対峙する。その言葉に、マリーは戸惑ったようにした。
「えーと、ちょっと待ってねサンソン。深い敬意を持ってギロチンの番をしていたあなたを、私は確かに信頼しています。でもだからって、あなただけが私を殺す資格を持つの?それっておかしくないかしら」
「おかしくないとも。僕は処刑人の家に生まれ育った。いい処刑人が罪人に苦しみを与えないのは当然だ。僕はその先を目指した。つまり…快楽だ。その瞬間、まさに死ぬほど気持ちいい。僕はそんな斬首を心がけたつもりだ。そして生涯最高の一振りが、君に向けた
斬首だった」
こいつはアマデウスをしていかれていると称されただけある、と内心で唯斗は思った。あまりに変質的だ。
生前の彼の様子からは、こんな性質は窺えなかった。
「だからこれは運命だ。僕はどうしても、もう一度君に会って確かめたかった。君はどうだった?最期の瞬間、絶頂を迎えてくれたかい?」
「…その辺にしとけよムッシュ・ド・パリ。人類史上まれに見るセクハラだ」
唯斗はマリーの前に進み出てサンソンから隠す。途端にサンソンは不快そうに顔をゆがめたが、何か言う前にマリーが口を開いた。
「あなたが本気で、心から私に敬意を表してくれているのは分かるわ、サンソン。でもごめんなさい、ちょっとそれは無理。とても口にはできないことだし。申し訳ないけど、二度目の口づけは受けられないわ」
「うん、知ってる。でもきっと君は喜んでくれるはずだ、だって僕はあのときより、もっとうまくなった。君にもう一度、最期の恍惚を与えよう…!」
「マリー、市民の避難最優先。俺とエミヤで相手する」
「…分かったわ」
サンソンが大剣を振りかざしこちらに接近し始めた。唯斗は背後のマリーを市民の方へ向かわせると、エミヤに迎撃を指示する。
「邪魔をするな…!」
「ストーカーは感心しないな」
エミヤは二刀流でサンソンを迎え撃つ。背後の市民と前方のサンソン両方を確認しながら、必要に応じてエミヤに強化をかける。
エミヤに弾かれて距離をとったサンソンに、ガンドで攻撃を食らわせると、サンソンはこちらに視線を向けた。
「人間を殺すのは僕のサーヴァントとしての信条に反するが、狂化状態じゃ関係ないな…宝具解放、刑を執行する」
「まずい、逃げろマスター!」
「遅い。『
死は明日への希望なり』…さあ見てくれマリー!」