邪竜百年戦争オルレアンII−12
エミヤに抱えられ、全速力で街を脱出する。
草原の街道を駆け抜けていくと、背後で宝具が展開される魔力の放出が感じられた。エミヤの肩越しに街を振り返れば、街を覆う巨大なガラスの宮殿が出現していた。ワイバーンたちは街に入ることができず、その結界によって市民の完全な避難もできているだろう。
「あの宝具…契約なしで展開できるもんじゃ……」
「霊基が破損しているだろう。じきに彼女は消失するはずだ」
「…そうだな」
マスター契約なしで展開できる魔力には限りがある。それでも押しきって展開したのだ、恐らく体がもたないだろう。
やがて前方に、戦っている立香たちが見えてきた。見ると、ジークフリートがしっかりと戦闘に参加している。どうやら洗礼詠唱は成功したようだ。
礼を言ってエミヤを戻し、立香たちに合流する。
「立香、ジークフリートの呪いは解けたんだな」
「唯斗!良かった、無事だったんだね」
立香は笑顔で迎えてくれた。恐らくマリーのことはもう分かっていることだろう。
ジャンヌとゲオルギウス、ジークフリートは怪我もなく無事なようだ。さらにもう二人、女性サーヴァントが増えていた。
「立香、その二人は」
「東の街で出会って仮契約したサーヴァントで、こっちがエリザベート・バートリー、こっちが清姫」
「本物のバートリーか。清姫は…能とか人形浄瑠璃で語られる蛇になった姫だったな」
カーミラと違い、本物のバートリー家の令嬢、エリザベートと、日本の伝説である清姫だ。エリザベートは少女の姿で竜のものらしき角が生えている。なぜかケバケバとしたドレスを身に纏っていた。
清姫は美しい着物に身を包んだ少女で、かつて恋した住職に振られて蛇に変化して寺の鐘ごと焼き殺したとされる。
「あら、こっちは魔術師としてそれなりなのね。私のマスターに相応しい子ブタ候補として控えておいてあげるわ」
「私は立香とマスター契約しましたので…うぶでこちらの方が可愛げがありますし。それにあなた、雄にモテるタイプですしね」
「……、ジークフリート、調子はどうだ」
どう反応すれば分からず、今までになくキャラの濃い二人にコミュニケーションを諦めた。唯斗はこんなサーヴァントを相手にできるほどコミュニケーション能力は高くない。
諦めてジークフリートに声をかけると、ジークフリートは優しく微笑んで唯斗の頭を撫でた。
「唯斗、ありがとう。マスターの仮契約は立香と結んだが、君ももう一人のマスターとして必ず守ろう」
「やはり雄にモテるタイプですね」
「………で、これからどうする」
色々言いたいことはあったが、清姫の「なにか?」という圧に早々に諦めて話題を切り替えた。
通信からロマニも助け船ではないがそれに乗ってくれた。
『これで可能な限りの戦力は揃った』
「そうだね。このメンバーで、オルレアンを攻めよう」
万全となったジークフリート、聖人ゲオルギウス、史実である分だけ霊基がカーミラより強いエリザベート、自身が蛇に変わる清姫、そしてジャンヌ、アマデウス、立香、マシュ、唯斗という布陣だ。
怪物を伴う戦争を経験しているのはジークフリートだけであるため、基本の陣形はジークフリートが検討することになる。
その考えでは、ジークフリートと立香、マシュはファヴニールを相手取り、ゲオルギウスや清姫は立香たちのフォロー、アマデウスはワイバーンへの遠距離攻撃、ジャンヌはジャンヌ・オルタとの戦闘を行う。エリザベートは私怨で倒したい相手がいるとのことだ。
「じゃあ俺は遊撃と即応だな。立香、任せる」
「分かった。頼りにしてる」
エミヤと唯斗のペアであれば即応が可能だ。最も機動力があるため、臨機応変にその場で立ち回る。本当はマリーの分をジャンヌ・オルタに入れてやりたいところだが、さすがにもうそんな行動をとれる段階ではない。
目指すはオルレアン、竜の魔女が占拠する街だ。