邪竜百年戦争オルレアンII−13
いよいよ、オルレアンに到達した。
平原の中、市街地に着く前に向こうから出てきてくれたらしい。前方の空からこちらに滑空してくる巨大な影は、一同の上空から急降下すると、轟音とともに着地した。
砂埃が舞い上がる中、竜の上から声が落ちてくる。
「こんにちは、ジャンヌの残り滓」
「…いいえ、私は残骸でもなければ、そもそもあなたでもありませんよ、竜の魔女」
ファヴニールの上からこちらを睥睨するジャンヌ・オルタに、ジャンヌは毅然と顔を上げて相対する。
「…?あなたは私でしょう。何を言っているのです?」
「…今、言葉が通じるとは思えません。この戦いが終わってから、存分に言いたいことを言わせてもらいます」
マリーと話していたことだ。言いたいことを言ってやりなさい、とマリーは言っていた。
「ほざくな…!」
ジャンヌ・オルタが低く言えば、呼応するようにファヴニールも咆哮を上げた。そして、ワイバーンの群れが現れる。空を覆う竜の大群。さらにファヴニールの後ろからは、デオンやヴラド3世などサーヴァントも出てきている。
こちらからはジークフリートがファヴニールに対峙し、アマデウスは空に指揮棒を向け、清姫は炎をちらつかせながら周囲を見渡す。マシュは盾をかまえ、立香はキャスターを呼び出してジークフリートの後ろに立った。
唯斗もエミヤを呼び出して臨戦態勢に入った。
「どうする立香」
「まずは周りのサーヴァントからやる。ファヴニールはジークフリートに任せるしかない。俺たちとゲオルギウス、清姫でヴラド3世とデオンを相手するから、アマデウスのフォロー入りながら様子見てくれ」
「了解。あの二人も本来はこんなことをするような英霊じゃない。速く、解放してやってくれ」
「うん、そうする」
ワラキアを守り抜いたヴラド3世、混乱するフランスで正義と使命を貫いたデオン。狂化など速く解いてやって欲しかった。
立香にその場を任せ、唯斗はエミヤとともにアマデウスの方へと向かう。
「マスター、アマデウスもサーヴァントと会敵しているようだ」
「は…?ってあれサンソンじゃねぇか、倒しきってなかったのか」
「執念だな」
エミヤを伴って、唯斗はアマデウスの隣に向かって強化した足によってジャンプし着地する。
こちらに気づいていたアマデウスは苦笑しながら状況を説明した。
「狂化が一際激しくなっていたんだが、余計なことを言ったら正気に戻ってしまった。手を貸してくれるかい?マリアへの餞だ」
「言われなくても」
こちらに重圧をかけるサンソンは大剣を構えて迫ってきた。猛烈な勢いで接近してくるサンソンに、エミヤは剣を構える。
「エミヤは近接戦、アマデウスは遠距離攻撃でフォロー。エミヤに当てるなよ」
「彼が避けてくれるさ」
「この国は酔狂なサーヴァントしかいないのかね」
「悪いエミヤ、フランスはそういう国なんだ。でも俺は、それが今は嫌いじゃない。だから、戦うぞ」
「…君がそう言うなら致し方ない」
そう言いつつエミヤは優しく笑って、大剣を振りかざすサンソンを受け止めた。あの補足性の高い宝具は展開させたくない。それはエミヤも理解しているだろうから、連続して攻撃をたたき込むだろう。
ワイバーンの咆哮や、さらには駆けつけてきたジル・ド・レェ率いるフランス軍の砲撃音など大きな爆音が響き渡る戦場に、エミヤとサンソンの剣がぶつかり合う鋭い金属音が貫く。それを包むように、アマデウスの奏でる音楽がサンソンへ衝撃波となって放たれた。
サンソンはそれを避けると、エミヤに一際大きく剣を振りかぶって吹き飛ばす。
避けながら上空に飛んだエミヤに、背後からワイバーンが迫っていた。
「エミヤ!」
唯斗は結界をワイバーンの正面に展開して、ワイバーンは思い切りそれに頭突きして呻く。エミヤはさらに唯斗が足下に展開した結界を蹴って飛び上がり、ワイバーンの背中に回って翼の根元に剣を突き立てた。
しかしその隙にサンソンがこちらに迫っていた。避けきれず、アマデウスをサンソンは吹き飛ばし、その大剣を唯斗に振りかぶる。
唯斗は咄嗟にしゃがんで避けて、サンソンに向けて右手の人差し指を向け、手首を左手で押さえる。魔力をふんだんに籠めて、一気にそれを放出した。
サンソンは顔からガンドを浴びて吹き飛ばされる。
そこに、エミヤが墜落するワイバーンの背中から弓を引き、尖ったニードル剣を矢として放った。それはまっすぐにサンソンを貫く。
宝具を展開されないようにするべく、唯斗は強化した足でジャンプして一気にサンソンの上に躍り出ると、倒れたサンソンに馬乗りになってその胸元に指を押し当てた。
砂埃が風に飛ばされ、口から血を流すサンソンは馬乗りになる唯斗を見上げる。
動けば霊核を貫くという無言の脅しに対してサンソンはうっすらと微笑んだ。
「…正義は、君たちにあったんだね。彼女は、あのときと同じく、諦観ではなく希望を抱いて魔女の炎に飲まれた。君に、どうか祝福がありますようにと」
「マリーはあんたにも同じことをきっと思ってたよ」
「…ふふ、そうだね。ひとつ、聞かせて欲しい」
「なんだ」
「フランスにはもう、死刑制度はないんだね…?」
「あぁ。1981年、西欧では最も遅いタイミングではあったけど、死刑は廃止された。死刑廃止を望みながら死刑を執行し続けたあんたの願いは、今、未来のフランスが死刑を復活できないよう憲法を改正してまで死刑を否定する形で叶ったんだ。あんたがいたから、欧州は死刑をなくそうと努めたんだ。だから…ありがとう。サンソン、あなたは確かに、法と人権において、歴史を前に進めた偉人だ」
「………そうか」
サンソンはそう呟くと、震える手で唯斗の頬を撫でた。アクアマリンの瞳は、水面のように揺れていた。
「ありがとう、未来のフランスの子。もしも君の元に召喚されることがあったら、その僕にももう一度言ってやってくれないか。きっと、そのとき僕は、君を守る剣となろう」
そしてサンソンは光とともに、ついに消失した。狂化によって狂わされていたが、彼は本来、誰よりも人権を守ろうとした人物だったのだ。