邪竜百年戦争オルレアンII−14
サンソンを倒し、アマデウスとエミヤのところに戻る。エミヤはこつんと唯斗の額を軽く叩いた。
「君は無茶はしないと分かっているが、あまり前に出るなよ」
「分かってる。それより、ファヴニールが倒れたみたいだな」
「あぁ、そのようだ」
「ワイバーンたちが三々五々だね」
アマデウスが言うとおり、ワイバーンたちは混乱して空を飛び回っていた。巨体が聳えていた方に視線を向けると、すでにそこにファヴニールの姿はなかった。ジークフリートが倒したのだろう。
ヴラド3世やデオンの姿もなく、エリザベートはカーミラを倒したようでもあった。薄々私怨の相手は分かっていた。
唯斗はエミヤとともに走って立香と合流する。
「ファヴニールは倒したんだな」
「うん、今ジャンヌ・オルタがジル…サーヴァントのジル・ド・レェと一緒にオルレアンの街に退却したから追いかけるところ。一緒に来てくれる?」
「了解した。立香は誰連れてくんだ」
「エリザベートと清姫に決まった」
それを聞いて唯斗はバッとジークフリートたちを見上げた。すぐにジークフリートもゲオルギウスも顔を逸らした。
巨大なスピーカーで自身のとんでもない歌声を響かせるエリザベートと、立香以外を顧みずに炎を吐き散らす清姫を押しつけたとみていい。
「…一匹でもオルレアンに敵を退却させてみろ、電気椅子でエリザベートのソロステージを聴かせてやるからな」
恨みがましくジークフリートに言うと、ぴゃっと肩を揺らして「すまない…!」と謝罪した。エリザベートは「名案ね」と顔を明るくしており、ゲオルギウスとアマデウスも顔を青ざめさせていた。
そうして、立香、マシュ、清姫、エリザベートとともに、唯斗とエミヤもオルレアン城内に侵入した。
豪華に飾られてはいるが、ここで殺された人々の血痕がいまだ残されている。悪趣味なそれらに気分を悪くしながら廊下を進んでいくと、正面から大柄な男が現れた。
ぎょろりとした魚人のような目を怒りに滲ませた男、ジルだ。
「ここは私たちが食い止めるわ。あんたらは先に行きなさい」
エリザベートと清姫はどうやらジルを足止めしてくれるらしい。確かに、ここで時間稼ぎに乗ってしまえば新たなサーヴァントを呼び出されるかもしれない。
「行こう、ジャンヌ、マシュ、唯斗!」
立香はすぐにその場をエリザベートたちに任せ、廊下を走り出した。唯斗もエミヤを伴って後に続く。
そうして最奥のホールのような場所にたどり着くと、ジャンヌ・オルタはゆったりと振り返った。その足下には大きな術式が描かれている。召喚術式だろう。
「とうとうここまでたどり着いたのですね。ジルは…まだ生きていますが足止めされましたか。では術式を組み替えるしかありませんか」
「あなたに一つだけ、窺いたいことがあります」
ジャンヌは立香たちの正面に立って、ジャンヌ・オルタに向き合う。ジャンヌ・オルタは面倒そうにした。
「今更問いかけなど…」
「極めて簡単な問いかけです。あなたは、自分の家族を覚えていますか」
「………え?」
その質問に、ジャンヌ・オルタは呆然とする。脈絡のないように思える質問に、立香たちも疑問を浮かべた。
さすがに唯斗もジャンヌの意図が分からず、様子を窺う。
「戦場の記憶がどれほど強烈であろうとも、私は、ただの田舎娘としての記憶の方が遙かに多いのです。私の闇の側面だとしても、あの牧歌的な生活を忘れられるはずがない。いえ、忘れられないからこそ、裏切りや憎悪に絶望し、嘆き、憤怒したはず」
「わ、たしは…」
「記憶がないのですね」
「…それがどうした!記憶があろうがなかろうが、私がジャンヌであることに変わりはない!」
「ええ、確かに関係がありません。けれど、これで決めました。私は怒りではなく哀れみをもって竜の魔女を倒します」
「やれるものならやってみるがいい…!」
そしてジャンヌは大量のサーヴァントを召喚した。しかしそれは黒い影であり、本物のサーヴァントとしての霊基ではない。シャドウ・サーヴァントだ。
「立香、ジャンヌ、シャドウ・サーヴァントやワイバーンは俺とエミヤでやる。キャスターはいるな、本体は任せた」
「了解」
立香はキャスターを再び呼び出し、ジャンヌとマシュとともにジャンヌ・オルタに立ち向かう。唯斗とエミヤで、ホール内に出現したシャドウ・サーヴァントをやる。
一体たりとも、立香たちの方には行かせない。