邪竜百年戦争オルレアンII−15


「エミヤ、あと数体だ、いけるな!?」

「ああ、もちろんだとも」


そう言いながら息を切らしている。
さすがに数十体におよぶシャドウ・サーヴァントとの戦闘は簡単とは言わないが、ジャンヌ・オルタと戦っている立香たちはもっと激しく戦闘しており、すでにホールはめちゃくちゃだ。
瓦礫となった床、倒れた柱、剥がれた壁という変わり果てた姿や、ワイバーンが吐いた炎がちらつくのを見ると、特異点Fを思い出す。


「特異点Fのシミュレーターで一緒に訓練してたの思い出すな」

「私もそう思っていたところだ。だが、訓練のときよりも遥かに君は戦いがうまくなったな、マスター」

「…、ありがと」

「ふ、照れているのか」


エミヤはおかしそうに小さく笑うと、がさつに唯斗の頭をかき回してから、一気にシャドウ・サーヴァント数体を大剣の矢で射貫いた。
いきなり褒められてどう反応すればいいか分からなかっただけだが、それをエミヤは分かって褒めたように思える。相変わらずマスターに対して皮肉めいた言動をする男だ。


「よし、掃討完了だマスター。あちらも区切りがついたようだ」


エミヤがすべて倒しきり、ジャンヌ・オルタのいるホール反対側を見ると、ジャンヌ・オルタが旗に体重を預けて立っているのが見えた。


「そん、な、馬鹿な…だって、私は、聖杯を所有しているはず、敗北はない…!」


そこに、廊下からジルが現れた。「おお、痛ましい姿に」と嘆くように言ったジルは大股でジャンヌ・オルタのところまで向かう。


「ですが、このジルが参ったからにはもう安心ですぞ。さぁ、安心してお眠りなさい」

「でも、私はまだ、…」

「それは私にお任せを。目覚めた頃にはフランスは滅んでいましょう」

「そう、そうよねジル、あなたが戦ってくれるなら…」


そう言ってジャンヌ・オルタはジルに支えられながら目を閉じて、そしてそのまま光に包まれて消えていった。
後にはジルだけが残される。

唯斗はエミヤと並んで立香の隣に戻る。ジャンヌはジルを見据えると、冷静な声で言った。


「やはり、そうだったのですね」

「勘の鋭い御方だ」

「あ、ここにいた!」

「いきなり逃げ出すとは…」


そこへ、ジルを追いかけてきたエリザベートと清姫もホールに入ってくる。
ジルはジャンヌ・オルタがいた場所に落ちた聖杯を拾い上げた。


「聖杯を持っているのは、竜の魔女ではありません。いえ、そもそもあのサーヴァントは英霊の座には決して存在しないサーヴァントです。私の闇の側面でない以上、そう結論せざるを得ません」


その英霊の闇の側面であるオルタ化。しかしジャンヌ・オルタはジャンヌと記憶を共有していなかった。加えて、同じルーラーというクラス。クラスまで同じ状態で召喚されることはありえない。ジャンヌ・オルタはやはり、サーヴァントだとすればルーラーではなかったことだろう。


「…聖杯にジャンヌの魔女バージョンを作らせたとでも…?」

「それはほぼ正解でしょう」


まさか、と思って口に出した推測にジャンヌは頷き、そしてジルも首を縦に振った。


「その通り。竜の魔女こそが、我が願望。私は彼女を甦らせようと願った。しかし聖杯に拒まれた。だから作り上げたのです!」

「彼女は最後まで、そのことを知らなかったのでしょうね。ジル、もし私を甦らせることができたとしても、私は竜の魔女になど、決してなりませんでしたよ。祖国を恨むはずがない。憎むはずがない。なぜなら、この国にはあなたたちがいたのですから」


ジルは、ジャンヌの処刑によって人生を狂わされた人物だ。黒魔術に傾倒し、数百人の少年を殺害したその悲惨な人生後半を考えれば、ジャンヌを甦らせようとしたのは不自然ではない。


「…お優しい。あまりにお優しいその言葉。しかしジャンヌ。たとえ、あなたが祖国を憎まずとも。私はこの国を憎んだのだ…!」

「ええ、それはあまりに道理です、ジル。しかし私はこの聖杯戦争の裁定者(ルーラー)として、あなたに立ち向かいます」

「ではあなたは私の敵だ、ジャンヌ・ダルク!!」


なんと悲しい戦いだろうか。
ジャンヌを敬愛し、その処刑に精神を病んで凶行に走って多くの親類を巻き込んで、挙げ句に百年戦争末期にアンジュー地方とブルターニュ地方の全面戦争にまでもつれ込ませたジルが、こうしてジャンヌと戦うなど。
それでもやらなければならない。人理を取り戻すために、この数奇な戦争を終わらせるのだ。


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