再会と目的−2
立香の召喚が終わり、次は唯斗の番となった。ダ・ヴィンチは一度清姫を別室の霊基保管室へ記録のために連れていき、その後、他のスタッフに居室へと案内させた。カルデア内には多くの居住室が余っていて、その中の一つを与えることにしたようだ。
それが、人類が滅びた中で孤独な戦いを強いられているカルデア職員たちのための、誤魔化しのような集団生活の演出でもあることは、唯斗は薄々勘づいていた。
ダ・ヴィンチが戻ってくるのを待って、唯斗も召喚に取り掛かる。立香はもちろん、唯斗の召喚は本当に誰が来るか分からないからだ。有事の際に対応できるよう、ロマニもダ・ヴィンチも控えている。
「じゃあ、やろうか」
「分かった」
ロマニに指示されて、唯斗も術式の前に立った。マシュと立香もここに残っている。全員の視線を感じながら、手をかざして詠唱を開始した。
同じように青白く照らされ、マシュの盾も光る。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」
そして最後のフレーズを述べた瞬間、術式が発動し、大きな霧が噴きだした。先ほどよりも大きく煙に包まれたのは、それだけ英霊としての格が高いからだろうか。
やがて霧が晴れて、術式から進み出る足音が響く。金属の重いブーツの踵が床を叩く硬質な音だ。
背の高いその英霊が煙から現れた直後、唯斗は、ゆっくり目を見開いた。
「クラス・セイバー、真名をアーサー・ペンドラゴン。私を呼んだのは君かな、マスター」
体のラインに沿った青地の軍服の上から金属の鎧を身に着けた、背の高い男性。被っていた黒いフードを下げて、金髪に碧眼という王子様のような美貌が露になる。
きっと今、ロマニたちはアーサー王伝説の主であるアーサーが現れたことや、特異点Fで出会ったセイバーと異なることなど様々な類の驚きに満ちているはずだ。しかし、唯斗はそれどころではなかった。
「…アー、サー……」
「…うん?君は、ひょっとして…いや、まさか…」
アーサーも唯斗を見て、動きを止めて驚愕を浮かべる。
無言になった唯斗を訝しんだのか、一足早く立ち直ったロマニが声をかけてくる。
「唯斗君?大丈夫かい?」
様子がおかしいと思ったのか、ロマニとダ・ヴィンチは術式のところまでやってきて、唯斗の顔を覗き込もうとする。
その瞬間、こみ上げてくるものを堪えきれず、唯斗は目元から感情そのものが溢れるかのように、ボロボロと涙を零した。重ねて驚くロマニが「え!?」と叫び、マシュと立香も動揺する気配がする。名前も呼んでくれただろう。だが、それに応えることもできなかった。
「この魔力…そうか、あのときの。もう、こんなに大きくなっていたんだね」
アーサーはそう言って優しく微笑むと、右手の鎧を消失させて素手になり、その白い指で唯斗の目元を掬った。その温もりに、あの日のことが、そしてあの日から今までのことが、すべて想起された。
「ぁ…おれ、ずっと、礼が言いたかった…」
「うん。僕も気掛かりだったんだ」
「っ…、生きることも、死ぬことも、どうでもよくて…でも、一つだけ、生きる目的があるとすれば、生きたい理由があるとすれば、あんたに、また会って、あのとき、俺は本当に嬉しかったんだって、そう、言いたかった…!」
また会えるだなんて思っていなかった。淡い期待にも満たない、いつか月に行ってみたいね、くらいのものでしかなかったものだった。
それでも、ずっと心の中にあの記憶が残り続けていた。
当然だ、初めて味方になってくれたのも、初めて守ってくれたのも、初めて人の温かさを教えてくれたのも、すべてアーサーだったのだから。
「……よく、生きてきたね。頑張ったんだね」
「…ッ!」
なおも優しく言ってくれたアーサーに抱きしめられて、全身が温もりに包まれる。あのときと同じ、優しく穏やかな体温。
唯斗が生きることを、初めて願ってくれた温度だった。