再会と目的−4
思いの強さのわりに、自分勝手で、相手そのものに依存していない。それは不自然なことではないだろう。また会いたいと思ったというよりも、まだ礼を言っていないからそれを言うべきで、それは明確な唯斗の人生のやるべきことだと思えた。唯斗にとってただ一つの、実感ある生きる意味だった。
「生きる意味がなくても生きていける。でも、夢も希望もないのに生きることは、死んでないっていうだけで、言い方を変えれば生命活動を維持しているだけだ。だから、俺の人間的な部分はすべて、あの日アーサーに助けられたっていう事実に依存した」
「どうして君はそんなにも…その、」
「無気力かって?」
「……僕の時代は、みんな生きるのに必死だったからね。生きることも死ぬことも選べる時代というのが、あまりイメージがつかなくて」
言いづらそうに尋ねるアーサーは、普通ならそこまで踏み込むべきではないと分かっていつつ、これからのために聞いておくべきだと思っているからこその態度なのだろう。本当に誠実な人物だと思う。
「…俺を生んで母は死んだ。それに父は狂って、母の遺伝子を含む俺の大量の血液を触媒に、カルデアのシステムをパクった術式で死者蘇生の召喚を行った。父は元から俺をそういう道具にする予定だったから、人間として認識してなくて、俺の面倒を見てくれたフランスの父方の伯母は、俺をアジア人だからと差別して虐待してた。アーサーにあの日助けられるまで、俺を助けようとした人も、守ろうとした人もいなかった。俺が生きることを願ってくれたのは、アーサーが助けてくれるまで11年間、誰もいなかった」
「…、マスター…」
「アーサーに助けてもらってからもそうだ。父も死んで、俺は一人で生きていこうと思ったから、俺を監視する魔術協会の協力であらゆる行政手続きを誤魔化した。向こうも、神秘が漏れだすことを恐れて俺を一人にしておきたかったから利害が一致してたんだ。俺はそこから4年間、一人でずっと生きてきた」
小学校卒業から中学卒業まで、唯斗は一人で生活しながら行政や学校には叔父の世話になっているという体裁を保った。そのあたりの魔術協会の処理はさすがである。
こうして、伯母にいじめられながら生きたフランスでの10年間と、日本で一人で生活した5年間が唯斗の人生のハイライトとなった。
「…さっき、アーサーに礼を言わなきゃいけないっていう事実に依存したって言ったけど」
「……うん」
ベッドのシーツを見つめて話していた唯斗だったが、顔を上げてアーサーと目線を合わせる。アーサーはずっとこちらを見ていたようで、すぐに目線が合った。真剣な表情に、そんな目で聞くような話じゃないと、唯斗は薄く笑う。
「…俺の人生で一番幸福だったのは、生まれて初めて頭を撫でてくれて、人生で唯一俺を抱き締めてくれた、アーサーと出会ったあの一瞬だったんだと思う。だから、その記憶にも依存してたのかもな…だから、みっともなく泣いたのかもしれねぇ。情けないな」
「…っ、唯斗、」
アーサーは唯斗の名前を呼んで、軽くベッドに上がって唯斗を抱き締めてきた。鎧を消しているため、青い服越しにアーサーの体温を感じる。
正面から抱きしめられたことで、唯斗は少し驚いた。アーサーが感情的にそんな行動をとると思わなかったからだ。
「そんな、そんな悲しいことを言わないでおくれ」
「…そうは言っても、それが事実だしな」
「それなら、僕がまたこうして抱き締めることを許してくれるかい?」
「…それは、俺が可哀そうだから?」