再会と目的−6
「ッ!知っているのかい?」
「聞いてないか?俺の父は、フランスの召喚術の名家グロスヴァレ家と、日本の召喚の名家・雨宮家の嫡子同士のハーフだ。アーサーと出会ったのも、祖母が暮らした雨宮本家の屋敷だった。なぜ世界が抑止力を持つのか、なぜ英霊が召喚されるのか。聖杯戦争はなんなのか。基本的なことは知ってる。それに、サーヴァントなら全員知ってるだろ」
「それにしても、今の話だけでよくそこまで思い至ったね」
「わざわざ他の世界から追いかけてくるんだぞ。世界間の転移ができるのは、単独顕現ができるビーストだけだ。それ以外の方が分からないっつの」
人類悪・ビースト。人類が乗り越えるべき悪であり、人類愛の一種の形でもある超弩級の厄災だ。唯斗も、実際にビーストがどのような姿をしているのか、そもそも実体のある存在なのか、概念なのか、よくは知らない。
だが、英霊を召喚しサーヴァントとして使役する召喚術は、本来、このビーストに人類が打ち勝つために生み出された技術であり、このビーストに対して世界が自ら均衡をとるために、抑止力として英霊の存在を許容しているのだ。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」という召喚の言葉通り、英霊とは、世界の均衡を保つための抑止力として存在する。そのため、英霊になった時点でサーヴァントは全員ビーストの存在を知っているはずだ。話を振れば応えてくれるだろう。
そして、ビーストの特徴の一つが「単独顕現」という時空を超越する能力であり、これによってビーストは世界の様々な時点に出現することが可能になる。つまり、レイシフトが一人でできてしまうということだ。
「…俺も、アーサーが言う通り、この世界線にビーストがいることには同意だ。じゃなきゃ、拘束力の強すぎるサーヴァント契約なんてできない。この世界に現界する必要がないなら、アーサーの転移の魔術の方が優先されたはずだ」
「そうだね」
「そんでもって、今、この世界は完全に焼却された。次の特異点は帝政ローマだって聞いてるから、少なくとも2000年に渡って人類の歴史は、人理は燃え尽きた。ビーストを探そうにもこの状況じゃ無理だし、そもそもこの事態そのものが、ビーストに関連してる可能性もあるだろ」
「むしろ、ビーストが絡んでない方がおかしい状況だろうね。つまり、僕の目的とカルデアの目的は恐らく多くの部分で一致しているし、まずは人理を取り戻さないことにはビーストの捜索だってできない」
「そういうことだ」
唯斗はベッドから軽く飛び降りるように立ち上がると、アーサーに手を伸ばす。召喚したときは動揺してほとんど挨拶なんてできなかった。
「俺は雨宮唯斗、カルデアのマスター予備員で、人理修復のグランドオーダーを遂行中だ。あの日、助けてくれてありがとう。アーサーに助けられて生きてる身で頼む失礼を承知で言う。この世界の修繕に、協力してくれ」
アーサーはほほ笑むと、同じく立ち上がり、正面から唯斗の手を握る。握手の形になって、改めて、身長差が10センチと少しほどあることに気付く。
温かいアーサーの手の平の温度を感じながらその目をしっかりと見つめた。
「あの日、君を助けたことは、この世界にとって、そして僕たちにとって等しく重大な運命だったんだろう。こちらこそ頼むよマスター・唯斗。ともに世界を救おう。そして、遅くなってしまったけれど……また、君に会えてよかった」
「っ、…俺もだ」
あの日、唯斗の人生の最大の分岐点となったアーサーと、こうして再会した。
今再び唯斗は、人類を救えるかという大きな分岐点を、少なくとも6つ乗り越えなければならない。その隣にアーサーが立ってくれることは、本当に運命のようだと、柄にもなく思ってしまったのだった。