再会と目的−7
唯斗がアーサーの召喚を行ってから1週間で、カルデアには一気にサーヴァントが増えた。これまでマシュの他にエミヤとキャスターだけだったが、立香はその後、アマデウス、エリザベート、そしてセイバーのランスロットを召喚。やはり特異点での縁に引っ張られたようだが、この3人はセオリー通り、記憶は共有していなかった。
しかし立香の持ち前の性格や、特異点での記録を閲覧できることから自分たちがどんな旅をして、どんな言動をしていたかまで確認したこともあって、全員好意的なようだ。
さらに、キャスター・クーフーリンのクラス違いであるランサー・クーフーリンまで立香は召喚し、同じ顔が二人揃って早速マシュにセクハラを仕掛け、立香に怒られていた。とはいえキャスターとほぼ同じ性質だけあって、そのあっけらかんとした性格は立香と相性が良いことだろう。
こうして第二特異点前に立香の戦力が出揃い、特異点に続き良好な関係で訓練が始まった。
ただ、ランスロットについては、特異点ではバーサーカーだったものの、カルデアにやってきたのはセイバーのきちんと会話ができるサーヴァントだった。
ランスロットはバーサーカーの自分が意思疎通もできない粗暴な振舞いだったことに頭を抱えていたが、唯斗としては伝説通りの人物だったことに内心でホッとしている。
そして、特異点での自身の振舞いで座に帰りそうになっていたサーヴァントがもう一人。
「…サンソン、狂化はお前のせいじゃない」
「……慰めは不要です、マスター…」
「だってよ予備員のマスター、このド変態!って罵ってあげなよ」
「ちょっと黙ってろド変態」
「おや」
霊基登録を終えて、管制室に隣接する資料室で記録を見終わったサンソンは、そのまま通路で蹲ってしまった。通りかかったアマデウスを追い払い、唯斗はサンソンと二人になる。
立香が召喚を続ける中、唯斗は二騎目のサーヴァントを召喚していた。その呼びかけに応じたのが、フランスで戦ったサンソンだった。
通常の状態で召喚されたサンソンは極めてまじめな性格で、マスターである唯斗に対して敬語で話す。真剣に世界の状況やカルデアのことも聞いてくれたが、実は特異点で敵として会っている、という話をしたところ、ぜひ記録を確認させてくれと言うため、案内がてら解説もしてやったのだ。
どんな戦いだったか、そしてどんな言動をしたかまで記録されている資料に、主観も混ぜて解説を入れてやったところ、サンソンはひどく憔悴してしまっている。
「私は…召喚されるべきではなかったのでは…」
「別に今はバーサーカーじゃないだろ。確かに、マリーに最期の瞬間に絶頂を迎えたかなんて聞いたときはドン引きしたけど」
「ヴッ……!!」
黒歴史を思い出して悶えるかのように、サンソンは壁に寄りかかって頭を抱えた。ランスロットはまだ一瞬だったが、サンソンとは三度も会敵しているのだ。
「…やはり、私は世界を救う戦いに不適格です、今からでも……」
「……サンソン、俺はまた会えたら言おうと思ってたことがあるんだ」
唯斗はサンソンの前に回り込み、壁にもたれて立つサンソンの顔を下から覗き込む。8センチほどの身長差であるためか、アーサーやエミヤよりは目線が近い。端麗な顔と美しい瞳を見ると、サンソンはこちらに目を瞬かせて視線を合わせる。
「…なんでしょう。罵倒ですか」
「ちげぇって。サンソンに、カルデアに召喚されたら言ってくれって言われたことでもある」
「そんなこと、記録にありませんでしたが…」
「個人的過ぎたから削除してもらった」
唯斗はオルレアン郊外の戦いで、サンソンと最後に戦ったときのことを思い出す。
「…1981年、フランスの死刑制度が廃止された年だ」
「ッ!そう、なんですか…フランスは、死刑が、もう廃止されたのですね……」
人類史上2番目に多くの処刑を執行した身でありながら、死刑制度の廃止を訴え続けたサンソン。近代法の罪刑法定主義が根付く直前、恣意的な処刑が横行した最後の時代でもあった。リベラルな思考の持ち主でありながら、時代に処刑を強制された悲劇の人物なのかもしれない。
「2002年、フランスは戦時を含むあらゆる状態であっても死刑を復活させないことを誓う国際条約を批准し、2007年、フランスという国が、未来永劫に渡り死刑を復活させないよう共和国憲法に死刑の廃止を明記した」
欧州人権条約第13追加議定書によって、フランスを含む欧州諸国はいかなる状態であっても死刑制度を復活できないようにした。さらにフランスは憲法レベルで死刑制度を禁じた。これによって、フランスは今後、死刑を復活させるには、EUを離脱し、欧州人権条約を一方的に破棄し、憲法を改正し、関連するすべての民法と刑法を改正しなければならなくなった。現代法制度と国際関係において、このレベルでの法改正は不可能と考えていい。
フランスだけでなく、欧州全体が死刑を廃止させたのは、フランス革命の惨禍があったからだ。