再会と目的−8


「守るべき人権と、執行すべき法の間には衝突がある。それを、サンソンは一番よく知ってたんだよな」

「…っ、はい…ただ、僕は、残酷な死を、彼らが受けることまで、彼らの罰とは思えなかった…だから、ギロチンを議会に提案したんです…ただ、それだけだった…!」


サンソンが望んだのは、あまりに非人道的な死刑をなくすこと。そうして、当時は最も人権を守った死刑としてギロチンが登場した。それが皮肉にも、合理的な大量処刑を可能にしてしまった。

法とは常にバランスだ。だからこそ、法を司るマークは天秤なのだ。


「サンソンの願いも、思想も、苦しみも、すべて後世の欧州は理解してた。だから、死刑を廃止した。フランスはそれでも西欧で最も遅い死刑の廃止になったけど、近代法において、刑罰の執行と人権のバランスをとるという視座に立って国家を動かしたのはサンソン、お前が最初だった。そうして罪刑法定主義が定着して、やがて死刑は廃止されることになったんだ」


サンソンは壁から体を離し、まっすぐに立つ。身長差がそれでよりはっきりとして、唯斗は下からサンソンの揺れる瞳を見上げることになる。


「…それを、特異点での私にも、この私にも、伝えてくれたのですね」

「これでも、フランス人の血が4分の1だけ流れてるんだ。あんたに会う機会があったら、言ってやりたいと思うもんだろ。特異点でマリーとジャンヌに言えたように」

「…マスター、」

「ありがとうサンソン、フランスの、欧州の、法と人権の考え方を前に進めてくれて。あなたがいたから、今があるんだ。特異点でも言ったけど…あなたは、立派な偉人だ」

「僕が、偉人、ですか……そんな、ことを言われる日が、来るとは…」


目を見開いたサンソンは、動揺しながら視線を落とし、そして、おもむろに床に片膝をついて、唯斗の前に跪いた。


「サンソン…?」

「…私はあなたを守る剣となります。あなたが私のマスターである限り、私という天秤は常に正道を示すのでしょう。あなたと、あなたの歩む未来を守るために戦うことをここに誓います、マスター」

「…あぁ、頼んだ。サンソン」


もともと特異点でも顔がいいとは思っていたが、正常な状態で真摯な表情でこんなことを言われると、さすがの唯斗も照れくさくなる。
同時に、戦った相手がこうして味方になってくれる頼もしさも感じた。

そうして、言ってやりたかったことを言えて満足した唯斗は、ふと、ちょっとしたことに気付く。


「…そういえばお前、私って主語のわりに、素は『僕』なのか?」

「えっ」


サンソンは驚いてパッと顔を上げる。
そして少しだけ顔を赤らめて背ける。


「…ええ、基本的には、おっしゃる通りです」

「じゃあ畏まらなくていい。なるべく自然体でいてくれ。俺はわりといろいろ雑だから、そうやってきっちりされると、やりづらい」

「マスターがそうお望みであれば。それにしても、まさかお部屋まで雑に管理されているわけではありませんよね。生活の乱れは心の乱れですよ」

「急にエミヤみたいなこと言うなよ…」


サンソンは立ち上がると、唐突にそんなことを言ってきた。まったく同じことをエミヤにも言われ、適当に服などを放置していた部屋に介入されたことがある。
恐らく処刑人として、私物はおろか唯斗本人にもサンソンは触れようとはしないだろう。処刑人としての生きざまはサンソン自身のアイデンティティでもある、そこをまだどうこう言う気はない。ただ、幸いにもエミヤのように部屋に突入して片付けろと無理やり行動させられることはなさそうだ。


「大丈夫、俺のルールに則って最適化されてるだけだ」

「…詳しいお話はエミヤというサーヴァントに伺っておきます」

「い、いや、そこまでしなくていいんだからな…?」

「いいえ。サーヴァントたるもの、大切なマスターを100%お守りいたします。お任せください、マスターのことは僕が万全を期して支えましょう」


エミヤといいサンソンといい、少し頼もしすぎるきらいがある。
にっこりと微笑んだサンソンに「ありがとう」と遠い目で返した唯斗は、このあと、アーサーもわりと口うるさいタイプだということを思い知ることとなる。


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