永続狂気帝国セプテムI−5
丘を越えて平野を見渡すと、遠くにローマらしき都市が見えた。そこへ通じる街道で衝突する大軍勢と、小規模な部隊。どちらもローマ帝国の意匠を施した装備を身につけている。内乱でも起きているのだろうか。
小規模な部隊の方がローマへ至ろうとしている軍勢を相手取っている形のようで、それを率いているのは若い女性だ。
「すさまじい剣筋だ。なかなかいないぞ、あのレベルは」
「アーサーが言うとはな…立香どうする、軍勢の方、吹っ飛ばすか?」
「何言ってんの唯斗!あの女の人の方に助太刀するけど、マシュ、なるべく殺さないようにしよう」
「はい、了解です」
「唯斗もくれぐれも殺さないでね」
「……はいはい」
唯斗は大規模なガンドで吹き飛ばそうと指先を向けたが、立香が慌てて唯斗の腕を下ろさせた。
なるべく殺すなという指示は予想通りだ。すでに殺さずに相手を撤退させるよう戦う心構えはできていたが。それにしても、無駄だと思う。殺さない方が難しいのだ。
立香たちとともに斜面を降りると、右翼から切り込む。
マシュが盾で峰打ちを開始すると、アーサーも剣を抜いて兵士たちを薙ぎ払っていく。唯斗もガンドで気絶させていくが、アーサーによって瞬く間に兵士たちが倒れていくのを見て攻撃をやめた。
「……つっよ……」
呆然と呟く立香に、唯斗も頷く。シミュレーターで訓練をしているときからアーサーの強さを痛感していたが、改めて瞬く間に敵の軍勢が崩壊するのを見ると、単騎で都市の攻略くらいは余裕の力を持っているのだと実感する。
「もともとセイバーはクラスとして最強だけど、その中でも群を抜いて強い…宝具なしで師団級を数分で瓦解させるとか、マジで一国が傾くな」
「唯斗とアーサーだけで特異点解決できるんじゃ…?」
「戦いだけで解決するモンじゃないのはフランスで理解しただろ。俺に戦い以外の能力はないと言っていい、立香が必要だ」
逆に言えば、立香だけいればいいのだ。本来は唯斗の方が必要ではない。
会話が続く前に、敵軍勢は退却を開始し、小部隊を率いていた女性が声を張り上げた。
「剣を収めよ、勝負あった!そして貴公たち、もしや首都からの援軍か?すっかり首都は封鎖されていると思ったが…まあ良い、褒めてつかわすぞ。たとえ元は敵方の者であってもかまわぬ。余は寛大故に、過去の過ちぐらい水に流す。そしてそれ以上に今の戦いぶり、評価するぞ」
金髪に赤いドレスにも似た軍服、緑色の瞳。美しい女性は君主のような口調で大仰に語った。まさかこの流れは、と内心で思っていると、女性は剣をしまってこちらに問いかける。
「しかしその方ら、見慣れぬ姿よな。異国の者か?」
「お言葉にあずかり恐悦至極…!」
「何言ってんだ立香」
突然立香は武士のようなこと言い始めた。なぜか板についたへりくだりである。女性はうんうんと頷いた。
「うむ、余の玉音に浸れる幸せを噛みしめてもよいぞ。ともあれ、この勝利は余とお前たちのもの。たっぷりと報奨を与えよう!…あ、いやすまぬ。つい勢いで約束してしまった。報奨はしばし待つが良い。今はこの通り剣しかもっておらぬ故な。すべては首都ローマに戻ってからのこと。では、遠慮なくついてくるがいい!」
質問してきたわりに、女性はすぐに部隊にローマへの帰投を指示する。
喋る暇もないまま、女性とともに都へと足を進めることになった。
歩き始めると、女性はようやく立香へと自己紹介の機会をくれた。
「ところでお前たち。異国の者に違いなかろうが、どこの出身なのだ?」
「未来です」
「なんと。真実だとしたら難儀なことよ。心中察するぞ。しかし、階段から転げ落ちでもしたか?」
いくら古代といえど、すでに西暦に入っているため、女性は簡単には信じないようだ。重ねて立香は説明しようとしたが、ロマニから通信が割り込む。
その前にアーサーが唯斗の肩を掴んで止めていた。
「サーヴァントだ、マスター」
『一体のサーヴァント反応を確認した!すぐ会敵する!』