永続狂気帝国セプテムI−8


現地の君主と協力できるというのは極めて良好な出だしだ。
しかし、直後にローマに押し寄せた大軍勢を相手に戦うことになると、それが大したメリットではないのではないかと思うほど、状況が悪いことを痛感する。


「皇帝を入れて5人でこの人数ってきっついな…!」


立香は息を切らしながら、夕焼けの平原でマシュに指示を出す合間に愚痴る。
市街地への侵入を防ぐために戦闘に入った一同だが、昼間に始まった戦闘は夕方になっても終わっていない。数が多いことももちろんだが、最大の問題はこちらが殺さないようにして無駄に疲労しているにも関わらず、敵は回復してからもう一度向かってくることだ。

唯斗も、先ほどはアーサーに任せきりにできたが、さすがに自分も戦闘に入っている。アーサーは相変わらず単騎で膨大な数を相手にしている。マシュも奮戦し、ネロに至っては人間なのにサーヴァント並みの戦いをしていた。

隣に立つ立香に背後から迫る兵士に、唯斗はガンドを撃って気絶させる。


「おわっ、ごめんありがとう!」

「まだ来るぞ」


こちらに弓矢を放つ兵士を見て、唯斗はすぐに結界を展開して矢を弾く。剣を振るう兵士に次々とガンドを放って倒していくと、とりあえず周辺の敵はいなくなる。


「いって…!」

「大丈夫!?」


ガンドを打ち過ぎたのか、右手の人差し指の爪が割れて鋭い痛みが走る。血が手に垂れるのを見て、立香が青ざめた。


「問題ない。ちゃんとマシュ見てろ」


そう言いつつ、唯斗は痛みに顔をしかめながら左手で回復魔術を展開して指先の怪我を素早く治す。
それよりも、立香もマシュも、そしてネロも息を切らしており、かなりギリギリだった。アーサーは当然というか、まったく疲れた気配を見せない。


「…立香。この軍勢相手に峰打ちを基本にするのは無理がある」

「でも、殺すのは…」

「これは明確に戦争だぞ。いくら率いているのが聖杯を持ったサーヴァントでも、ローマの分裂をよしとして都を攻めることを決めたのは人間たち自身だ。あいつらはやらされて戦ってるんじゃない」

「でも聖杯がなければこんなことにはならなかった」

「その聖杯を回収して時代を修正すればなかったことになる死だ」

「俺は唯斗みたいに割り切れない」

「お前ができるかどうかなんて聞いてねぇ。じり貧で戦い続けんのか」


いい加減、生ぬるい考え方はやめて欲しかった。フランスではなんとかなったが、次第にそうはいかなくなっていく。人間の死をいちいち避けている暇などなくなっていくだろう。


「なかったことになるって言っても、人の死は人の死だろ」

「なんでもない人の死を避けるためにサーヴァントを消耗するのか。場合によっては戦力を失うことにもなるんだぞ」

「……それでも俺は、なるべく助けるために行動するし、サーヴァントにもそう頼む。もちろん、サーヴァントが無駄死にするくらいなら諦めるよ。なるべく避けたいってだけで、まったく許容できないわけじゃない」

「…今はそのラインを超えてるんじゃねぇのって話だ」

「あと少しなんだ、まだ…!」


食い下がる立香に、唯斗は諦める。予備員として振る舞う以上、立香に対して強引な態度を取るわけにはいかない。そこまでするなら、正式なマスターとしてより責任を負うべきだ。


「…あと20分だ。それまでに敵が撤退しないなら、マシュもネロも限界になる。そうしたら全員殺すからな」

「……分かった」


立香もマシュの様子は理解している。唯斗が明確にした最終ラインは立香も同意できるものであったようで、それまでは踏ん張ることになった。
唯斗は自分と立香の守りに徹し、アーサーたちは攻撃に徹する。

すでに日は完全に沈み、夜の暗闇が平原に降りている。そして15分が経過した頃、ようやく敵の軍勢は夜の闇の中へ撤退していった。


67/460
prev next
back
表紙へ戻る