プロローグ−3


父を失った唯斗は再びフランスのグロスヴァレ家に戻り、13歳までフランスで過ごした。フランスに戻された理由は簡単だ。禁忌を冒した魔術師の息子を、時計塔の座すロンドンに比較的近い場所で監視するためだ。

一般女性を生き返らせようとした父の蛮行は時計塔で大問題になり、息子を触媒にした狂気に魔術師たちは震撼した。この一件で、グロスヴァレ家も雨宮家もその家名は地に落ちたが、すでに傍系しかいなかったこともあり、魔術協会と関係の浅い親族の邸宅で特に魔術協会とも時計塔とも関わらずに生きてきた。

一般的にも名家だったグロスヴァレ家の親族からは、日本人が4分の3となるクオーターだったこともあり、黄色人種との混血であるというだけでも疎まれるのに時計塔から家ごと追放されたという事実も相まってとにかくきつく当たられた。

そうしてすっかりフランスが嫌いになった唯斗は、13歳になってからグロスヴァレ家に別れを告げて日本へと渡った。2年が経って、危険性はないと魔術協会から判断されたのか日本への渡航は止められこそしなかったが、常に監視を行う魔術師がいることは感じていた。唯斗の魔術回路は、恐らく両血筋において最高のものに仕上がっており、聖杯もないのに召喚術を成功させた最大の要因でもあったことから、その点だけは魔術師たちからも一目置かれているようだった。

とはいえ彼らの感想は「もったいない」というだけで、特に唯斗に対する同情などないだろう。

一応、グロスヴァレ家の家督を継承している事実は変わらないため、日本に来てからもミドルネームとして残さざるを得なかったが、唯斗はフランスでの苦しい日々からこの名を激しく嫌っている。
そのため、唯斗は日本での暮らしにおいてグロスヴァレのミドルネームを名乗らず、人と会うときは「雨宮唯斗」としか名乗らなかった。

それほどまでに父と連なる血筋を嫌う唯斗だったが、2015年、高校1年生になった直後のことだった。

時計塔天文科を司るアニムスフィア家の当主・オルガマリーから連絡があったのだ。

特に何も理由を述べず、手配はするからすぐに来い、という呼び出しである。
場所は「人理継続保障機関フィニス・カルデア」という、天文台に端を発する研究施設である。アニムスフィアの管轄で、国連や魔術協会の後援で設立された施設だ。場所は秘匿されているが、他でもない、亡き父が召喚術式を盗んできた場所こそこのカルデアであるため、唯斗は場所を知っていた。
カルデアは、南極大陸の標高6000メートルの山岳地帯に建てられており、極めて高度な結界に守られているらしい。父が亡くなったあとに多くのことを知った唯斗だったが、わざわざ南極まで赴くことになろうとはさすがに思わなかった。

それでも断らなかったのは、さすがに応じないとまずい相手だったからだ。なにせアニムスフィアは時計塔で「12の君主」と言われる名門中の名門、逆らってもいいことなどない。



そうして、唯斗は2015年の4月末にカルデアに到着した。魔術は独学で学んでいるものの、時計塔に在籍しているわけでもない唯斗は他の「マスター候補」と言われる者たちと3か月の訓練をそこから行い、マスター候補49名がすべて揃ったのは訓練を終えた7月の終わりのことだった。

そして同時に、オルガマリーに呼び出され、唯斗は戦力外通告を受けることになる。

その日は、一般枠と呼ばれる10名がやってきて49名のマスター候補がすべて揃うことになっていた。慌ただしそうにしているオルガマリーがじきじきに唯斗が滞在していた部屋にやってきて、珍しく悔し気な顔で告げたのだ。
プラチナブロンドの長い髪を揺らし、神経質そうな顔には疲れも見える。


「悪いけど、あなたには正規の候補から外れてもらうことになったわ。あなたは現時刻を持ってマスター予備員として配置転換します」

「……了解。他の候補からの反発を抑えきれなかったわけだ」

「さすがに任務に支障をきたす恐れがあったの。これでも悪いと思ってるわ」


唯斗は日本人の血が濃いが、暮らしていたのはフランスであるため対等に話す。もともと唯斗が敬意を払って敬語となることなどほとんどない。

オルガマリーはそれどころか、爪弾き者である唯斗を他の候補と対等に扱っていた。彼女の目標達成のためには、家柄など気にしていられなかったらしい。家柄だけなら唯斗の血筋は確かに優等なのだが、やはり死者蘇生という禁忌がその名前をひどく落としている。

そのため、もともとほかのマスター候補たちから唯斗への風当たりは強かった。49名のうち、Aチームと呼ばれる優秀な者たち8名を含む38名が名門の出であり、残り10名は才能ある一般人枠という、端的に言えば数合わせである。唯斗は一応名門の枠に当たるが、他の者たちがそれを良しとはせず、オルガマリーはその批判を黙殺し続けたがついにどうしようもならなくなったらしい。


「別に、こだわりはない。予備なのはわかった。今日のファーストオーダーは参加せず自室待機って理解で間違いないか?」

「ええ。まあ、あなたならそう言うと思ったわ。何事も無気力、二言目にはどうでもいい。世界の危機さえそんな態度なんですもの。いくら落ちた名とは言え、グロスヴァレの名が泣くわよ」

「…それこそどうでもいい」

「……そう。話は以上です。それでは」


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