プロローグ−4


そう言ってオルガマリーは部屋を後にした。無機質な白を基調とした機械的な部屋には沈黙が落ちて、唯斗はベッドに横たわる。

特に飾りもないし、観葉植物はスタッフに渡されたもののすぐに枯らしてしまい、無残に散っていた。枯れた葉をゴミに出してからは貧相な枝だけがプランターから生えている。あれはもう死体のようなものだ。

シャワールームの隣にあるクローゼットには、ここに来るときに着ていた高校の制服が入っている。ブレザータイプのそれは、すぐに日の目をもう一度見ることになりそうだ。一応これでも、一人暮らしながらきちんと綺麗にしていたため状態はいい。かつてアーサーと出会ったあの雨宮家の邸宅で、唯斗は依然として一人で暮らしている。

そこで、一つだけ残念だな、と思った。無気力な唯斗が唯一感じた感情だ。カルデアで唯斗は、マスター候補としてサーヴァントと契約する可能性があった。天文学的な確立ではあるが、唯斗はアーサーと再び会えることを期待していたのだ。

しかしもともと無理だろうとも思っていたこともあり、それでもなおさほど残念だと思わなかった。当然だ、オルガマリーが言っていた通り、世界が滅亡するかもしれないというのにどうとも思わなかったのだから。



カルデアに49名が集められた理由。それは、このカルデアが100年先の地球を観測し、100年後も人類の営みが継続していることを保障する組織であり、その観測に突如として2017年以降の人類の活動が映らなくなってしまったことだ。

それはすなわち、人類が2017年に滅びる可能性を示唆している。

カルデアは天文台だ。ここで観測している天体はしかし、なんと地球そのもの。天体には命があり、それを複製して再現する疑似地球環境モデル・カルデアスによって地球を観測している。地球の極小モデルであるカルデアスを取り囲む複数の鏡のような装置として、近未来観測レンズ・シバがカルデアスの表面を観測し、100年後の地球に都市の明かりが映っていることを確認しているのである。

シバが2017年以降の人類の明かりを観測できなくなったことで、カルデアは人理の保障ができなくなった。この事態を解決するべく、カルデアの若き所長であるオルガマリーが49名の優秀な人材を集めたわけだ。

なぜ49名がマスター候補と言われるのか。それは、この事態を引き起こした原因が2004年の日本の小都市・冬木市に生じた時空の歪みであると判明し、この時空間へ転移して調査するために、そのお供としてサーヴァントを使役するからである。この冬木市に生じた時空間のことを、現在は「特異点F」と呼んでいる。

サーヴァントの使役は、本来、聖杯戦争において聖杯の力があって初めて実現するものである。唯斗が11歳のときにアーサーと出会ったことは唯斗にとって謎だったが、あのときのアーサーの言葉から、もともとアーサーが時空を超えて転移しようとしていたからだという結論に達している。もちろん、あのときアーサー王が召喚されたことは唯斗しか知らない。魔術協会や時計塔が知っているのは、息子を生贄に妻を甦らせようとして召喚術式を起動し、英霊の影が僅かに召喚されたものの魔力の欠乏によって父が先に死に至り、息子であり魔力量が多かった唯斗だけが助かったというシナリオである。

とにもかくにも、本来は聖杯の力が必要な英霊の召喚にカルデアが成功しているのは、かつて父が携わった、聖杯戦争を解読して電力による術式の起動を可能にした、守護英霊召喚システム・フェイトがあるからだ。

このフェイトによって英霊を召喚しながら、マスターたちは過去の時空である特異点Fへと向かうことになっている。このタイムトラベルを、レイシフトという。レイシフトは人体を霊体化して時空旅行を行うことであり、霊子演算装置・トリスメギストスというスーパーコンピューターのような装置によって実現したものだ。


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