永続狂気帝国セプテムI−10


「俺はたとえ世界が元に戻っても、居場所はない。両親はもういねぇし、親戚も連絡手段がないし、引き続き魔術協会に監視されながら一人で生きてくことになる」

「…そう、なのか」

「あぁ。人類が滅びようと存続しようと俺は一人だ。だからどうでもいい。滅んだってかまわない。でも、俺はあの爆発を生き延びて、カルデアで生活することになった。カルデアで生きるなら働かなきゃいけないし、それがマスターとして人理を修復することなら全力でそれに取り組む。でもそれは、合理的であるべきだ」

「合理的であることと消極的であることはイコールではないだろう」

「その通りだな。でも、共存する。俺はとにかくグランドオーダー完遂を目的にするし、そのためなら特異点の人間がどれだけ死んでもいいと思ってる。そんでもって、最悪人類が滅んだっていいって考えで生きていく。それがもたらす結果。それはな、何かあったとき、立香の生存率を上げられるってことだ」

「……身代わりの犠牲になるのに躊躇いがないってことかい」

「そういうこと」


さすがにアーサーの理解は早い。
別に人類が滅んでもいい。そんな考えだから、立香のために犠牲になることが容易なのだ。


「……立香には家族がいる。友達もいる。あいつには居場所がある。帰る場所があるなら、ちゃんと帰るべきだ。だから、あいつと俺の命は等価だけど、優先されるべきはあいつだと思ってる。俺は生きてても死んでても同じなんだから。俺が死んでも、誰も乗り越えられないほどの絶望に陥ることも、それだけの悲しみを抱くこともない。立香もマシュもロマニも、きっととても悲しんでくれるだろうけど、乗り越えられないものじゃないはずだ」

「ッ……、」


アーサーは言葉を継げなくなっていた。反論はできないだろう。事実、唯斗は立香の友人でもないし、マシュの恋人でもないし、ロマニの子供でもないのだ。そういう極めて重要な関係性を構築した人間はカルデアにいないし、外にだっていない。
しかし立香が死んだら多くの人が乗り越えがたい悲しみを感じるだろう。それだけ、人に愛される人間なのだ。
だから、優先されるべき命は立香であって唯斗ではない。そういう状況を維持するには、唯斗が人理修復に消極的な姿勢で取り組み、合理的に、機械的にやるべきことをやるだけというスタンスで任務をこなす。

それが、あの日泣いていた立香をどうすることもできなかった、無力な唯斗ができることだった。


「俺は予備員のマスターだ。最悪俺がいる、それだけで立香の心の負担は軽くなる。実際には俺が命を差し出すんだけど、それはそのときまで黙ってればいい。俺が後ろにいるだけであいつが楽になれるんだ。それが俺の一番の存在価値だ」

「……君の思いを、彼に伝えることはないんだね」

「当たり前だろ。自分のために体張ろうとしてるなんて知ったら、あいつは俺のことも守ろうとする。本末転倒だろ」


ザクロを食べるのが面倒になって、途中で食べるのをやめる。結局、パン2切れとスープ、ブドウを0.5房、ザクロを少し、水が唯斗の口にしたものとなった。大半のものは食べていない。


「…もう食べないのかい?」

「いらねぇ。味薄いし、食うこと自体面倒臭くなったから」

「…もう少し食べないと、普段から食が細いだろう。成長期なんだから」

「生きることに意欲がないのに成長期気にしてどうすんだ」


何を言っているんだとばかりに水を飲み干すと、ナプキンで手を拭いた。
さすがにアーサーも幻滅しただろうか、とちらりとアーサーを見てみると、軽く俯いてワイングラスを握りしめていた。


「…アーサー?」

「……すまない、僕は君を見くびっていたようだ。君は、本当に強くなったんだな」

「なんだいきなり」


脈絡のないことを言い出すアーサーを不思議に思いつつ、唯斗は席を立ってベッドに向かおうと背を向ける。
すると突然、後ろから温もりに包まれた。体の前に逞しい腕が回って、体格差から抱き込まれてしまう。清潔な香りが背後から立ちこめて、アーサーが唯斗の髪に口づけるように抱き締めているのだと理解した。


「な、にしてんだ、アーサー」

「抱き締めたくなった」

「……なんだそれ」


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