永続狂気帝国セプテムI−11
本当にどうしたのだろう、と視線を後ろに上げると、アーサーはひとつ呼吸をしてから、「よし!」と突然明るい声を出す。
何かと思った瞬間、アーサーは唯斗を連れてベッドに向かうと、強引にシーツの上に横たわった。
「わっ、おい!」
「気にしない気にしない」
軽い口調で言うアーサーに横になったまま抱き込まれてしまい、アーサーの左腕に頭を乗せられて胸元に顔を押しつけられた。これでは腕枕だ。なぜいきなりこんな姿勢になったのか分からず、唯斗は目を白黒させる。
鎧を消しているため、アーサーにくっついても体温を直接感じられる。先ほどの肌寒さは感じなくなり、暖かさに息をつく。
「……アーサーって意外とあったかいんだな。体温低めなのかと思ってた」
「そうかい?この部屋は少し寒いからね、僕が暖めてあげよう」
「どうしたんだいきなり」
「…君の強さは立派だけど、少し、つらかった」
そんな言葉が返ってくるとは思わず、唯斗は驚く。顔を上げようとしたが、アーサーに後頭部を撫でられてしまい、その心地よさで動けなくなった。
「いくら生への執着が少なくても、藤丸君のために体を張る覚悟を決めるのは簡単なことじゃない。何より、世界を取り戻した先に居場所がないと分かっていながら努力をするのは、きっと君自身が思っているよりも、それはずっと苦しいことだ」
「…さぁな。ただ無気力なのをそれっぽい言葉で誤魔化してるだけかもよ」
「そうであっても、君のやっていることは立派だ。その覚悟も、君の誠実さの現れだ。現実的で合理的で、君の言うとおり無気力だから冷たい印象を与えてしまうだろうけど、君の優しさも誠実さも本物だ」
「………、人間として欠けてるだけだ」
「…褒められても受け取れないのは、君がそれだけ人に否定されながら生きていかなければならなかったからだ。誰にも褒められることも認められることもなかったから、いざ褒められると、どう反応したら分からないんだろう」
「っ、」
そんなことを意識したこともなかったが、アーサーに言われたことはあまりにも理解できてしまって、自覚していなかったことを無理矢理自覚させられた気分だ。
確かに、唯斗の努力は最初、アジア人だからと何もかもを否定する叔母や、こちらを顧みない父に認められることが目的だったのかもしれない。それは結局叶わなかったが。
「…レイシフトする前も言ったけれど。僕は君を守るよ。改めて決意した。苦しい道を選ぶしかなかった君が、それでも努力を続けて、ちゃんと誰かのためになることを考えて、誠実であろうとしている。ただの無気力なんかじゃない。常に最善を考え続ける君なりの在り方なんだろう。だから僕は、いつでも君の味方になろう。必ず守るから、やりたいように世界にぶつかっていくといい」
優しくそう言ってくれたアーサーの声音は、包むように唯斗を守ろうとする決意に満ちていた。それでいて、唯斗の意志と覚悟を尊重してくれている。唯斗という一人の人間を支えようとしているのだ。
「…俺にそんなこと言ってくれるの、今まで生きた人間には誰もいなかった。まあ、アーサーも死んでないけどさ。なんか…なんだろ、あったかい。体じゃなくて、心が」
体の内側が温かくなるような感覚は今まで感じたことがなかったものだ。いや、あの日、アーサーが助けてくれたとき以来だった。
「…そっか。ずっと、寒かったんだな、俺」
ぽつりと気づいて口にした言葉に、アーサーは頭上で息を飲んだ。
そして、また優しく抱き締める力を強くした。それに促されるようにアーサーの胸元に顔を寄せる。
こうして気づいてしまったことは、きっと、唯斗をいつか苦しめる。この戦いが終わればサーヴァントたちとは離れることになるだろう。特にアーサーには目的があるし、もともとこの世界の存在ではない。
いつか訪れる別れのときに、この温もりを忘れなければならないのだ。
その苦しさも、唯斗は覚悟しなければならない。グランドオーダーの先に待ち受ける、決して幸福ではない未来を受け止める覚悟を。