永続狂気帝国セプテムI−13


ネロたちが出立してから半日、太陽が傾き始めた頃、斥候が唯斗の部屋にやってきた。なぜか一緒にいたアーサーとともに話を聞けば、ローマ市街地の西から大軍が接近しているとのことだった。


「皇帝の行軍を見た敵の斥候かスパイだな。にしてもすぐに軍勢が来るとは…もともと半島にいたってことか」

「よく隠れ仰せていたものだね」

「我々の手勢は少なく、ローマ近郊しか斥候も監視できず…半島の沿岸部はところによっては死角なのです」

「別にいい。俺たちが迎え撃つ。市街地西方の農民や商人の市内への誘導を急いでくれ」

「はっ」


斥候はすぐに走って行った。唯斗はアーサーとともに廊下に出て、歩いて城の外へと向かう。
かつて神祖ロムルスがローマを築いた最初の丘であるパラティヌスの丘には歴代の皇帝や貴族や暮らす邸宅が建ち並び、ネロもそこの宮殿にいることが多かった。このあとの大火を挟んでから、付近にはローマの象徴であるコロッセウムが建築される。
丘の北西には、現代ではフォロ・ロマーノとして知られるフォルム・ロマヌムが広がり、ギリシア風の列柱建築や壮麗な凱旋門、アーチ建築が立ち並ぶ。

前方にカピトリヌスの丘を見ながら、唯斗は足に強化魔術をかける。


「僕が抱きかかえて運んであげるのに」

「ローマ市民に痴態を晒すくらいならテヴェレ川に身を投げる」


すげなく返してから、別の斥候が二人のところに駆けてくるのを見て彼を待つ。兵士は二人の前で膝をつく。


「敵兵は西方3キロ地点まで接近しております」

「了解。じゃあ行ってくる。ついてこなくていい」

「へ……」

「行こうアーサー」

「いつでもいいよ」


唯斗は頷くと、足に魔力と力を込める。そして勢いよく上空に飛び上がった。風が耳元で空を切る音が響き、列柱の建物がいくつも瞬間的に過ぎ去っていく。眼下の焼きレンガや大理石の色味の乏しい街並みが急速に遠ざかっていった。
当然、隣にはアーサーが飛んでおり、時折建物の屋根や鐘楼の塔を足がけにしながら加速してスピードを維持する。


「アーサー!川のとこだけ頼む!」

「いいよ」


前方にテヴェレ川が見えてくると、広い川幅を超えるには脚力が足りないため、アーサーに引っ張ってもらうことにした。
川岸の建物の屋根を蹴って再び空に飛び上がると、アーサーが唯斗の手を掴む。このまま引っ張ってもらえば対岸に着地できるはずだった。
しかし、アーサーはそのまま唯斗を引っ張って抱き寄せると、空中で唯斗の身動きができないのをいいことに、唯斗を横抱き、いわゆるお姫様抱っこの状態にした。


「っ、おいアーサー!」

「やっぱりこっちの方が合理的だよ。合理的なのは好きだろう?」

「そういう問題じゃねぇだろ!!」


空中で叫ぶがアーサーは聞く耳を持たず、市街地の上空を姫抱きにされながら飛んでいく。
幸いなことに、川の西岸は住宅が少なく、すぐ農地になるためまだマシだったとはいえ、しげしげと見上げてくる市民も垣間見えた。

ようやく市街地西方の街道に着地したときには、唯斗はアーサーが降りると同時に、鎧がつけられていない右腕に拳を入れる。


「いてて」

「マジ覚えてろ…くそ、この上乱暴に追い払えないとかストレス溜まるな…」


前方からは師団級の兵士たちがの軍勢が接近していた。
斥候と警備の部隊が慌てて街道を戻ってくるのを見て、唯斗は市街地を指さす。


「先に戻ってろ!」

「し、しかし!」

「いいから!他の方向から接近する敵がいたら伝えに来い、ここから市街地へは一歩も通さない」

「分かりました!ご武運を!」


兵士たちがローマに戻ったのを見届けてから、邪魔者がいなくなり、もう数百メートルまで迫った軍隊と対峙する。


「早速呼んでやるか。サンソン、エミヤ」


魔力を籠めて呼べば、エトナのサークルが稼働してこの特異点にカルデアからサーヴァントが一時的に呼び出される。


「サンソン、ここに」

「今度はイタリアかねマスター」

「サンソンはこんなにサーヴァントらしいってのにお前ときたら…」

「今更だろう」


しっかりサーヴァントらしく呼び出しに応えて礼をしながら現れたサンソンに対して、エミヤは周りを見渡してのんきにそう言った。
とはいえ英霊に普通を求めるのもナンセンスか、と唯斗は早々に諦める。


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