永続狂気帝国セプテムI−14


「敵は前方に見えてる人間の軍団だ。グランドオーダー正規マスター様こと立香が殺しを避けるよう言ってるのもあるけど、サンソンに人を殺させたくない。全員、相手を気絶させつつ多少大仰な攻撃を行ってビビらせてやれ。ベストな勝利はこっちがなるべく疲れずに相手を早急に退却させること。俺たちの目的はローマ市街地の死守だからな、深追いは不要だ」


サンソンはサーヴァントとして、決して人を殺そうとしない。処刑でない限り、人は他者に命を奪われることがあってはならないという信念だ。それを尊重したい。
サンソンはそれを忘れずにいる唯斗に対して、申し訳なさそうにしながらも微笑んで礼を言った。


「ありがとうございます、マスター。必ずあなたに勝利を。訓練通り、僕は左翼へ切り込みます」

「了解した。では、私はマスターのそばに控えて遠距離攻撃に徹する」

「想定通りの展開だね。僕は手はず通り右翼に回る。サンソン殿、厳しくなったら言ってくれ」

「心配は不要だよ。人を気絶させる最も効率の良い方法は熟知しているさ。マスター、何かあればすぐ駆けつけますので」

「あぁ。行ってらっしゃい」


サンソンとアーサーはそれぞれ左右に分かれて軍団へと駆けていった。二人とも剣を構えて、大勢の敵兵を薙ぎ払っていく。
エミヤは弓を出現させると、軍団中央に向けて剣の矢を構える。


「エミヤが一番難しいよな、峰打ち」

「そもそもアーチャーに峰打ちを要求することがもはや哲学的だとは思わないかね」

「同意する。でも死体がゴロゴロ転がってるのバレたら立香に怒られる」

「まさか怖いのか?」

「作戦に支障をきたすだろ。特にマシュのパフォーマンスに影響が出るし、それは立香の生存可能性に悪影響だ。それで立香が死んだら俺が人類最後のマスターになる」

「……はいはい。そういうことにしておいてやろう」

「…………お前な」


エミヤは最初のサーヴァントだけあって唯斗の心情を察しているようだ。アーサーに話したことをそのまま理解しているわけではないだろうが、唯斗がどうして立香の言うことを聞いているのか、ある程度分かっている。
話しているとどうにも唯斗や立香に近しい価値観を持っているように思える。つまりは、日本で過ごしたことがある一般人だった過去があるのではないかということだ。
だからだろうか、他の英雄に比べてこちらの感情の機微の理解が速く適切な気がする。

それは基本的には助かっているのだが、たまにこうして大人に許される感じを前面に出されてどう反応すればいいのか分からなくなる。

エミヤは放った剣の矢を兵団に着地する直前に爆発させる。剣に爆弾を一緒に装着しているようだ。エミヤは構造さえ知っていればそれをトレースすることができる。
空爆のようなことができないかと思って、エミヤに爆弾をトレースしてもらっておいて良かった。


「さすがに爆殺は気が進まなかったが、威圧なら役に立つな」

「…俺は、別にエミヤに人を爆殺させるつもりで言ったんじゃ、」

「あぁ、分かっているとも。すまない、少し意地悪が過ぎたな」


エミヤはそう言うと唯斗の頭を撫でた。いつものがさつなものではなく、優しく、すまないという意思表示のようだった。


「…気にしてない。とっとと済ませよう」

「承知した」


もともとただの人間相手にサーヴァント三騎は多すぎるくらいだ。アーサー一人でも十分なところに三騎揃えたのは、単に速く仕事を済ませるため、そしてローマに残った戦力が隙といえるようなものではないと示すためだ。
それだけで、敵の戦意を喪失させられる。

そうして戦うこと20分、強すぎるアーサー、ことごとく気絶させられるサンソン、そして無秩序に上空で爆発を起こして優しく兵士を吹き飛ばすエミヤの前に大軍勢はあっという間に瓦解した。
逃げるように撤退していく者たちや、気絶したまま残された者たちを見ながら、サンソンとアーサーが戻ってくる。


「怪我は当然ありませんね、マスター。しかし表情が沈んでいるようですが…」


サンソンに指摘された途端、エミヤはバツが悪そうにした。少しはからかってやるべきか、と思って唯斗はサンソンに沈んだような声で返す。


「…俺、サーヴァントに人を爆殺させるようなマスターに見えるか……?」


そう言った瞬間、サンソンとアーサーはエミヤがそういうことを言ったのだとすぐに理解した。
サンソンの冷えた目がエミヤに向けられる。


「……あなたは人間ではないので処刑しても問題ありませんね」

「い、いやちょっと待て、確かにからかい過ぎたのは反省しているが、私とマスターの間の話であって、」

「見苦しいよエミヤ殿。潔く自刃にかかったらどうだい」

「じ、自害判決……」

「ま、いいや。エミヤはあとでくっそ酷使してやるから覚悟しとけ。とりあえず二人とも戻っていいぞ」


唯斗はけろりと言うと、エミヤは「何もなくともそれくらいするがね」と珍しいことを言ってカルデアに戻った。サンソンもため息をついてから、「何かあればすぐ呼んでください」と言って帰った。
残されたアーサーと唯斗は、後方からこちらにやってくる警備部隊に気絶した兵士を引き渡すべくその場に残る。


「…少し、まだ落ち込んでるね」

「……ちょっとショックだったのは確かだな。でも、エミヤが本気で俺のことそういうヤツだと思ってないのも分かってる。適当なヤツに言われても何も思わないけど、やっぱ近しい人だと違うもんだな」

「普通は適当な人間に言われてもそうだよ。そんなことに慣れてはいけない」

「そうは言ってもな、もっとすげぇこといろいろ言われたし」


フランス語は罵倒の語彙が豊富な言語だ。色々と言われ続けてきたため特にどうとも思わない。アーサーは悲しげに笑うと見えない剣を消して、ぽんぽんと頭を軽く撫でた。
その軽い接触だけだったが、エミヤといいサンソンといい、マスターであるというだけでこうも優しくしてくれるのだから、英霊とは本当に基本善性なのだな、と思った。


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