永続狂気帝国セプテムI−15
その後、別の方面からの小規模な戦闘こそあったが、すべてアーサー単騎で事足りた。夕方には恐れを成したのか、敵兵力はすべてローマ近郊からいなくなり、唯斗とアーサーは市内に戻る。
自室に戻ってベッドに座ると、アーサーはやはり当然のようにそばに控えていて、アーサーにも部屋があてがわれているのだが、ずっとこの部屋にいる。
そして、蝋燭を交換したり、食事を運んできたりと甲斐甲斐しく世話を焼く。王様なのにそんなことまでしなくても、と思ってしまうのは普通の感覚のはずである。
夜も深まりつつある中、ロマニから通信が入り、騒がしい音も聞こえることから立香たちも含めたオープン回線だと分かった。
ベッドに座る唯斗と、そばに控えて立つアーサーの二人で、唯斗の右腕につけられた通信機器に注意を向ける。
『状況の報告と共有をしよう。まずは唯斗君から頼む』
「こちら雨宮、今日はローマ西方、北方よりトータル2500ほどの兵士と交戦した。約600人の捕虜がいるけど、多分死者はゼロ。こちらの損害はなし」
『なんと!その数をたった二人で相手取って大勝とは!』
ネロの感心したような声が聞こえてきたと思うと、直後に、若い女性の声も入ってきた。
『へぇ〜、本当にローマに残った方もめちゃくちゃ強いんだねぇ』
「…その声は?」
唯斗の疑問と、唯斗の報告が済んでいることから、マシュが通信の向こうで答えてくれる。
『こちらはガリア、野営地にてサーヴァントのブーディカさんとスパルタクスさんと合流しました。明日、ガリアを支配する連合の敵将に攻め込む予定です』
『あたしはブーディカ、よろしくね、もう一人のマスター君』
「あ、あぁ、よろしく…こんなこともあるんだな」
『お、その感じは知ってるね。うん、本当に世界って不思議なことだらけだ!』
『さて、それぞれ共有も済んだところで明日の確認をしよう』
ブーディカと聞いて、唯斗だけでなくアーサーも驚いていた。この状況では当たり前だ。
この時代の直前に、ブーディカはブリタニアのローマ都市をことごとく焼き払い数万人を虐殺し、その後ローマ側、それもネロによって打ち倒されてしまう。ただ、その後のネロの戦後処理によってブリテンはむしろ帝国でも最も安定した統治が行われることになる。
ロマニはそれぞれの状況をまとめた上で、明日も引き続き、ガリアでは連合との戦闘を続け、唯斗はローマの防衛にあたる旨が確認された。
とりあえずは、ガリアの平定後にネロたちは一度ローマへ帰還する。
そうして通信が終われば、唯斗はアーサーの顔を覗き込んだ。
「早く会えるといいな」
「そうだね、この時代にブーディカ女王がいるとは…皮肉というか、本当に聖杯は突拍子もないことをする」
「アーサーより前の時代でイングランドの英雄って言ったらほとんどいないしな。英霊じゃなきゃ、会うことができないのは俺たちと同じだな」
「うん。まぁ、ケルト文明からすれば僕たちは征服者かもしれないけど」
「ブーディカを語り継いだのもお前らアングロサクソンだろ。魔法学校への秘密の特急が出発する場所に埋葬されてるなんて都市伝説があるくらいだし」
ブーディカは一説にはキングスクロス駅の8〜10番線のあたりに埋葬されていると言われている。これはほぼデマだと立証されてはいるものの、それだけ英国の人々がブーディカの伝説を語り継いでいる証左だ。
特に、「ブリタニア」という英国を擬人化した女性像はこのブーディカに連想されるものだとされる。
「君は本当に詳しいね。世界中の英霊に対してそのレベルの知識があるんだろう」
「召喚術の家系だからな。サーヴァントに関する知識は、時計塔やアトラス院に匹敵する資料の蔵書があるかもしれない。つか、うちの家系から出た人間が時計塔やアトラスで研究を進めたっていう方が正しいか」
「生まれだけじゃない、きっと君の努力の成果だ」
「…、さあな」
昨日、アーサーが素直に褒め言葉を受け取れない理由を推測していたが、確かに唯斗は、こうして褒められるとどうすればいいのか分からなくなる。
結局はこういう不躾な態度になってしまうのだが、アーサーはそれでも微笑んで受け入れてくれるのだ。