永続狂気帝国セプテムII−1
ネロたちは無事にローマへと凱旋した。
直前まで、唯斗とアーサー、そしてサンソンとエミヤでローマ近郊の掃討作戦を行っており、その途中、ローマ西方で古代スパルタの英霊・レオニダスと会敵。
さらに南方では遠征から戻る途中に敵軍に囲まれていたネロの客将でありサーヴァントの荊軻、呂布と合流することに成功した。
荊軻は紀元前3世紀頃の中国、燕の暗殺者で秦の始皇帝を暗殺しようとした者だ。「傍若無人」という言葉は荊軻にまつわる故事成語である。白を基調とした中国の仙女のような格好の女性のサーヴァントだった。呂布は同じく中国において後漢末期の2世紀末に活躍した武将で、見るからにバーサーカーな大男である。
二人とも伝承に違わず、荊軻はアサシン、呂布はバーサーカーだった。
これによって特に問題なくネロたちはローマに入り、宮殿で荊軻たちと合流、すぐにヒスパニアへと赴くことになる。
ちなみに荊軻たちへの説明はロマニが仕事をしなかったため、唯斗が行うことになった。荊軻が話の分かる人物で良かった。幼い頃から遊説に長けた人物なだけある。
そうして、大軍を率いてローマ帝国軍は再びガリアを経由してピレネーを越え、カタルーニャからヒスパニアに入った。
ガリアでは留まっていたブーディカとスパルタクスも加わることになり、ようやくブーディカと会うことができた。
「おや、君がもう一人のマスターだね」
「ブーディカか、よろしく」
ガリアの野営地で握手を交わすと、ブーディカは唯斗の隣に控えるアーサーをじっと見つめ、パッと顔を輝かせた。
「あらあら!こっちも後輩じゃない!も〜お姉さん本当に嬉しい!後輩たちが揃いも揃って人類最後のマスターと世界を救う戦いをしているなんて!」
「……後輩、たち?」
ブリテンの英霊であるブーディカが、後世のブリテン王であるアーサーを「後輩」と呼ぶことは不自然ではない。しかし、後輩たち、と言うには、この場には関連するサーヴァントは他にいないはずだ。
「初めまして、女王ブーディカ。お会いできて光栄です。私は別の世界のブリテン王ではありますが、こうしてあなたにお会いできたこと、大変な栄誉です」
「いいよそんな改まらなくて!あんたたち中世初期の人々が、ケルトの文化とゲルマン系の文化をうまく融合してくれたから、あたしたちケルトの英霊もサーヴァントになるほど後世に伝えられたんだ。感謝してるよ」
ケルト文明のあったイングランドに入ったアングロサクソン人たちは、もともと明確な文明を持っていた部族ではなかった。それは、現在のデンマーク・オランダ・イングランドがあまり共通の文化的特徴を持っていないことからも明らかだ。
文明の強さで言えばケルトのものの方が強く、土着文化に取り込まれたような形だ。それが、英国の独特の文化的景観を生み出した。
アーサー王伝説も、ケルトとゲルマン両方の特徴が見られ、まさにイングランドにおけるケルトからゲルマンへの国家の過渡期を象徴する物語と言える。
「…ブーディカ、その、後輩たちっていうのはひょっとして、マシュの……」
「おっと、そういえば唯斗だっけ、君は相当詳しいのよね。今のだけでそこまで行き着くか。うん、ごめん、きっとあたしの口から言うべきことじゃないね」
「……分かった。じゃあ、聞かないでおく。とにかく、一緒に戦えて俺もアーサーも嬉しい」
「ふふ、いい子だね。ありがとう。あたしもとっても嬉しいよ」
赤髪の快活な女性であるブーディカは、明るい姉御肌というやつだろう。アーサーもそんなブーディカの姿に安心したような、そして嬉しそうな様子だ。彼女に会えて嬉しくないイングランド人はいないだろう。
もともと唯斗は、マシュの宝具であるあの盾が、年代的にアーサー王伝説くらいのものであることやあまりに強い力を持つことから、マシュと融合したサーヴァントを円卓などのアーサー王伝説関係者だと推測していた。アーサーはマシュを見て特に何も言わなかったが、どこか懐かしいものを見るような目線をしていたこともあったため、唯斗の推測は間違っていないと考えている。
もちろん、具体的に誰か、というところまでは行き着いていない。当たりはついているが、ブーディカがこう言うなら、まだ知るべき時ではないのだろう。