永続狂気帝国セプテムII−5
一際大きい音を立てて、ロムルスは槍を床について凭れた。しかし、膝は絶対につかなかった。
「…眩い、愛だ。ネロ。永遠なりし深紅と黄金の帝国。そのすべてを、お前と、後に続く者たちへと託す。忘れるな、ローマは永遠だ。故に、世界は永遠でなくてはならない。心せよ…」
そう言い残し、ロムルスは光とともに消失した。
当時にキメラも消え失せて、サンソンとエミヤが戻ってくる。荊軻も立香のところに戻った。
ネロは剣を割れた大理石につくと、息を切らしてロムルスが消えた空間を見つめた。
「勝ったのか…そうか、これで…うむ。ローマは、元あるべき姿へと戻るだろう」
「まだだ。聖杯を回収しないと…魔術師とやらはどこ行ったんだ…?」
そう、ロムルスは倒したが、聖杯は魔術師が持っているということだった。
その魔術師が誰かは分からない。ネロが首をかしげたところに、荊軻が鋭い声を上げた。
「待て。誰かがいる。サーヴァントではない、が」
そう荊軻が言った直後、崩れた玉座の前に突如として男が現れた。緑を基調とした紳士のスーツ姿にハット、長い髪。
「いや、いや。ロムルスを倒しきるとは。デミ・サーヴァント風情がよくやるものだ。冬木で目にしたときよりも、多少は力をつけたのか?」
レフ・ライノール、カルデアを爆破した張本人だ。立香とマシュ、唯斗の警戒心は最大まで引き上がる。まだ戻っていないサンソン、エミヤ、ランスロットやいち早く気づいた荊軻、そして唯斗の隣で警戒を滲ませるアーサーも、レフの異様な空気に目線を険しくしていた。
「だが所詮はサーヴァント。悲しいかな、聖杯の力に勝ることなどあり得ない」
レフは輝く聖杯を手に傾けながら歌うように言った。ネロは剣を構えてレフを正面から捉える。
「あやつが宮廷魔術師か。では、ああして構えている黄金の杯が…」
「はい、あれが聖杯です」
「聖杯を渡せ、レフ・ライノール!」
立香が毅然として言うと、レフはにっこりとして立香に視線を向けた。
「ほう。いっぱしの口を利くようになったね、少年。聞けばフランスでは大活躍だったとか。まったく…おかげで私は大目玉さ!本来ならとっくに神殿に帰還しているというのに、子供の使いさえできないのかと追い返された!結果、こんな時代まで後処理だ」
どうやらレフは、人類史の重要な節目において、時代を狂わせ得る人物や英霊に聖杯を渡すことで、特異点を生み出していた。フランスではジルに聖杯を渡して、15世紀フランスを竜が跋扈する国に作り替えた。
今回も古代ローマを狂わせる人物を探したが、ローマの永遠を望んだ英霊たちはそれを拒否し、神祖ロムルスの元に集った。レフは仕方なく、自身で時代を狂わせた。
『皮肉だなレフ教授。この時代、君のような人類の裏切り者はひとりもいなかったってわけだ!』
ロマニの言葉に、レフは嘲るように顔をゆがめた。
「ほざけカスども。人間になんぞ初めから期待していない。君たちもだよ、藤丸君、雨宮君。凡百のサーヴァントをかき集めた程度で、このレフ・ライノールを阻めるとでも?」
「あのときとは違う!」
立香は叫ぶように返した。オルガマリーの死をただ見ているしかなかった、何もできない自分とは違うと。
しかしレフは変わらずに嘲笑を浮かべる。
「ああそうだな。無駄にあがけば無駄に苦しむと分からない、その愚かさが実に無ざまに成長したとも!そしてやはりお前たちは思い違いをしている。聖杯を回収し、特異点を修復し、人類を…人理を守る?馬鹿め!結末は確定している。貴様たちは無意味、無能!哀れにも消えゆく貴様たちに!今!私が!我らが王の寵愛を見せてやろう!」