永続狂気帝国セプテムII−8
現れたのは、短い銀髪に長いヴェールをかけた女性で、額に赤、青、黄色の光を放つ神々しい姿だった。
「さあ殺せ、破壊せよ、焼却せよ。その力でもって、特異点もろともローマを焼き尽くせ!ははは!人理継続など夢のまた夢!このサーヴァントこそ究極の蹂躙者!アルテラは英霊ではあるが、その力は…」
「黙れ」
静かな声とともに、レフは、突如として縦に真っ二つに分かたれた。血が飛び散り、唯斗は咄嗟に結界でそれを跳ね返す。危うく汚いもので汚れるところだった。
アーサーは素早く唯斗を背中に隠す。
アルテラは、半分になったレフが落とした聖杯を手にすると、それを吸い込んで吸収していく。
「私は、フンヌの戦士である。そして、大王である。この西方世界を滅ぼす、破壊の大王。破壊の……」
言いながら、アルテラは宝具を展開し始めた。急激に光と魔力が集まっていく。この至近距離はまずい。
「っ、マスター!」
アーサーは唯斗を抱き上げると、すぐにその場を離れる。立香もマシュとともに離れており、慌てて駆け寄ったキャスターに回収されてホールを出ようとした。立香が清姫をカルデアに戻し、荊軻がネロを連れ、唯斗もサンソンとエミヤをカルデアに戻す。
「人は言う。私は、神の懲罰なのだと」
「っ、間に合わない…!」
宝具はもう解放される。ギリギリ、唯斗はアーサーとともに逃げおおせることもできるかもしれないが、立香たちは無理だ。マシュもそう判断して、宝具を展開した。
しかしアルテラの方が格上である以上、押し負ける。他に防御役もおらず、万事休すかと思われた。
直後、ホールに飛び込んできた赤髪が、すかさず宝具を展開した。
「
約束されざる守護の車輪!!」
巨大な車輪がいくつもマシュのシールドの周りに浮かび、アルテラの光を防ぐ。アーサーと唯斗の前にも車輪が浮かび猛烈な風と光を遮ったのと同時に、ブーディカの輝く双頭馬車が唯斗とアーサーも回収して飛び立つ。荷台に乗せられたのは立香たちも同じで、ものすごい勢いで崩壊していく宮殿を出て、連合首都郊外に降り立った。
馬車が消えて街道の石畳の道に降り立つと、空中を揺れながら移動してきたためによろめいた。すかさずアーサーに支えられる。
なんとか脱出に成功した一方、首都の方を見ると、黒煙が立ち上っていた。市街地の大半が消滅しているだろう。
「…助かりました、クイーン・ブーディカ」
「いいって!ちょっと焦ったけどね」
アーサーが恭しく礼をすると、ブーディカはあっけらかんと笑う。
立香、マシュ、荊軻、ネロも無事だ。キャスターはカルデアに戻したらしい。
「唯斗、アルテラって…?」
立香に尋ねられ、アーサーの腕に支えられながら答える。
「ローマ帝国が……あー、欧州の文明が古代から中世に切り替わるとき、中国北方にいた異民族フン人は、中央アジアを経由して欧州に入ってきて、大混乱を引き起こした。その君主として君臨したアッティラのことだろ。アルテラって呼び方は初めて聞いたけど、彼女の言葉を聞けば分かる」
ネロがいる手前、詳しいことを言えなかった。
395年、ローマ帝国が東西に分裂したあと、フン人が欧州になだれ込んできた。それに追いやられるように、ゲルマン民族も玉突きのように次々と西欧へと移動した。
このゲルマン移動によって、西ローマ帝国は滅亡。欧州は大混乱の中で古代ローマがもたらした高度な文明を喪失し、西欧文明は一気に原始的なものへと凋落する。
写実的な芸術も、美しい音楽も、高度な建築も、貨幣経済も、すべてが消失し、文明はリセットされた。それを西欧が取り戻すまで、実に1000年近くも必要となり、その間の長大な中世という期間は「暗黒の中世」と呼ばれる記録のない時代となってしまう。
アルテラの死後、フン人の帝国は、もともと国家という機構を持ってはいなかったのだが、崩壊して地図から姿を消す。