永続狂気帝国セプテムII−9
『すでに連合首都から移動を開始したようだ。方角から見て恐らく、首都ローマを目指すつもりだろう』
ロマニは通信によってアルテラの位置を告げる。
レフを葬り去り、ただ一人、破壊衝動に任せて進む大英霊。
「ならばあれは、余の都を灰燼と化すつもりか?」
『そうだろうね。そして彼女にはその力がある』
「この特異点は皇帝の生存とローマ市の存続、そのどちらかでも満たされなければ修復は叶わない」
そう言いつつ、唯斗はどうしても自分の足に力が入らず、アーサーにもたれてしまう。それに気づいた立香は、心配そうに声をかけた。
「唯斗、大丈夫…?」
「…ちょっと、力入んなくて…やっぱ魔力の消費量、半端ないな」
「当然だよ。本来、聖剣の魔力を解き放つところを、二重の拘束を解かずに宝具の力を解放したんだ。その代替エネルギーは君の魔力が元だ。むしろ、こうして意識を保っているだけで驚きだ」
『唯斗君の魔力はかなり消費してる。令呪分だけだね。これはまずい、召喚も難しいぞ』
「……俺のことはいい。それより、皇帝とローマ、両方とも守らなきゃいけない」
口にすると疲弊がかなり意識されてしまい、唯斗はアーサーに寄りかかる。まったくアーサーはぶれずに支えてくれた。
マシュはそんな唯斗を心配そうに見つつ、顔を曇らせた。
「では、アルテラを倒すしかありません。私たちに…適うでしょうか、果たして」
「できぬか?マシュ」
「……、」
ネロが尋ねるが、マシュは答えられない。しかしネロは薄く笑った。
「余はそうは思わぬ。立香は、マシュは、唯斗は、幾度も余を助けてみせた。余は確信している。運命と神々は、余に味方していると。だからこそ立香たちが来た。余の想いはきっと叶う。ローマは救われる。余の民と、余のローマは、後世にも残る。絶対にだ。神祖もそう言っていた。余は聞いた。世界は永遠でなくてはならぬ、とな。ならば、ローマはすなわち永遠に続くのだ」
ロムルスとの戦いにおいて、ロムルスはそう語っていた。ローマとは永遠であり、だからこそ世界は永遠でなくてはならないと。
「たとえ、その名がいつか忘れられたとしても、ローマが植えた多くの芽は、形さえ変えて続くだろう。永遠の帝国はあり続ける。皇帝が変わり、国が変わり、名が変わろうと。それが人の繁栄の理。人間という生命の系統樹。そなたたちが守らんとする、人理に他ならない」
それは事実だ。ルネサンスによって西欧はローマの文明を取り戻し、それは大航海時代、宗教改革などの大激変をももたらすのだ。そしてそれらなしに、産業革命も資本主義も生じない。
だから人は、ローマを「永遠の都」と呼ぶのだ。
やはり皇帝として人の上に立つ者なのだろう。ネロの言葉で奮い立ち、マシュも立香もアルテラとの決戦に向けて決意を固めた。
その後、いつの間にか偵察に出ていた荊軻が、アルテラまではすぐ追いつける距離にいると伝えてくれた。
「…すぐ追いつけるって言っても、このまま地中海に出ればローマまではずっと海上になる、俺たちが戦える場所じゃない。俺たちに残されたのは、スペイン北東部沿岸部までの僅かな平野だけだ。決めるなら時間はない」
「唯斗の言うとおりだ。余たちにかかっている。すぐに向かうぞ」
アルテラが地中海に出てしまえば、もう唯斗たちでは戦う手段がない。そしてイタリア半島に上陸すれば、ローマまではすぐだ。
しかし、アルテラに吸い寄せられたのか、アルテラが吸収した聖杯のせいなのか、続々と大型の幻想種が出現して行く手を阻んだ。
無駄に時間を削られるうちに、ついにブーディカと荊軻は残って立香たちをアルテラに先行させることを選んだ。
ネロは後ろ髪を引かれるようだったが、しかし振り切って前へと進む。
これが、最後の戦いになる。