永続狂気帝国セプテムII−11
「ありがとうございました、ネロ・クラウディウス」
マシュが礼を言った直後、マシュの足下から消え始めた。立香、唯斗、アーサーもそうだ。光とともに霊子に変換されていく。
「マシュ!なんだか足の先から薄くなっているぞ!?まさかお前たちも消えるのか!?唯斗、アーサーも…そうか、消える、か…」
「…ごめんね、もう行かないと」
立香はネロに歩み寄り、一言謝った。唯斗とアーサーも、歩けるうちにネロのそばまで寄る。ネロは一瞬沈んだ顔をしたが、すぐに明るく笑顔を作った。
「…なんとなく、そんな気はしていたのだ。余は勘が鋭い方だからな。伯父上や神祖、アルテラたちと同じようにお前たちも消えていくのだろうと。ブーディカもそうか?荊軻や呂布、スパルタクスも」
「…はい。この時代は修正されます。そしてきっと、連合との戦いの記憶も、なかったことになるでしょう」
「寂しいな、それは…」
「そう、ですね…」
別れは悲しいものだ。それよりも、記憶がなくなることの方が遥かに悲しいものかもしれない。
沈むネロとマシュ、立香。
「もはや疑わぬ。余はその言葉を信じるが、困ったな、これは。正直に言って残念だ。無念だ。まだ、余は何の報奨も与えてはいないというのに。お前たちであれば、きっと、余にとって、臣下ではなく、もっと別の…いや、やめておこう。お前たちの行く先にもきっと、ローマはあろう。だから、別れは言わぬぞ。礼だけを言おう」
ついに霊子変換は全身に及び、レイシフトが始まる。いよいよ帰還だ。
「…ありがとう。そなたたちの働きに、全霊の感謝とバラを捧げる、とな!」
その言葉を最後に、ついにレイシフトして平原は消失した。ハッと目を覚ませば、コフィンの蓋が開いて管制室が目に飛び込んでくる。
「…帰ったか」
上体を起こしてみれば、レイシフトを終えて、スタッフたちも息をついて椅子にもたれていた。隣のコフィンではアーサーがすでに外に出て立ち上がっている。
「立てるかい?」
「あー…ちょっと、まだだめかもしんない」
足に力が入らず、一角欠けた右手の令呪も当然ながらそのままだ。
アーサーに手を伸ばされて、それを掴んで立ち上がると、よろめいたところを抱き留められた。そこへ、ロマニが降りてくる。
「おかえり、唯斗君、アーサー王。随分仲良くなったね」
「…どうだろうな」
「僕たちは元から運命に結ばれているからね」
にっこりと花の咲くように笑ったアーサーはまさに顔面宝具といった感じで、ロマニも苦笑する。
そこに、マシュと立香も起き上がった気配がした。そちらを見ると、二人とも元気そうだ。
「おかえり、二人とも。そしてお疲れ様。聖杯を見事に回収したね」
「は〜い、早速回収するよ〜」
後ろから現れたダ・ヴィンチは、マシュの盾にいつの間にか収納されていた聖杯を回収する。マシュもそんなところにしまわれているとは知らず驚いていた。
「ともあれこれで二つ目だ。我々の当初の目的であるレフの追跡も達成できた」
「でも、レフは」
立香は顔を曇らせる。確かにレフはアルテラによって真っ二つにされてしまった。
唯斗はアーサーに抱き留められたままの姿勢で口を開いた。
「七十二柱の魔神。ヤツはそう言った。ソロモン王に仕えたという魔物なのか、それともその特性を模造したものなのか。しかも、その特性を模造してるなら、普通に考えて他に71人いるかもしれない」
「そうだね。本当に魔神なんてものがいるとは思えないけれど、そう名乗った以上、その特徴を兼ね備えている可能性が高い。ただ、今の僕らにできることは、残りの5つの特異点を修復することだけだ」
「あと5つ…」
立香はため息をつきながらコフィンにもたれる。ロマニは快活に笑って「いい返事だ」と返してから、ダ・ヴィンチのいる方へと向かっていった。
今日はこのまま休みとなる。
戦力増強は明日からだ。
「さぁマスター、部屋まで送っていこう」
「ん、」
アーサーは唯斗の体に腕を回し、横抱きにする。アーサーにもたれて体が浮き上がる感覚のあと、ふと、視線を感じた。
立香とマシュ、さらには管制室のスタッフたちと、こちらを見ていたロマニ。そのロマニはまた面白そうに笑った。
「すっかりお姫様抱っこが板についたね。ローマの留守番してるときはあんなに拒否してたのに」
そういえば、ローマで留守を頼まれていたとき、街を強化で飛んでいく中で、テヴェレ川を渡る際にアーサーに姫抱きにされてキレた。
なのに、いつの間にかそうやって移動することに慣れていた。それどころではない事態の数々に、気づいていなかったのだ。
「お姫様と呼ぶには強すぎるけれど、僕にとっては大切なマスターだからね」
「〜〜〜ッ!!見るな下ろせ笑うな!!」
一息に言った唯斗に、スタッフたちの笑いが漏れる。ロマニもけらけらと笑い、立香もニヤニヤと、マシュは微笑ましそうにする。
羞恥で死にそうになった唯斗だが、動けないことに変わりなく、アーサーは下ろさなかったしスタッフはこちらを見て楽しげにしていた。
勘弁してくれ、と思いながらも、アーサーが優しく微笑むのを至近距離で見上げると、結局絆されてしまうのだった。