サーヴァントの距離−5
「断りませんよ、マスター。ケルトの英霊として自信をもって保証します」
「まぁ、断らない、とは思うけど…そもそもこんな頼み事をすること自体…」
「作文用紙でももらってこようか?」
「殴るぞアーサー」
用紙にしたためるか、と提案するアーサーを睨めばさすがに口をつぐむ。意外とエミヤ同様にからかってくるタイプの男なのだ。
「マスターは日本の生まれ、フランスの育ちでしたね。何か頼み事には作法があるのですか?」
「そういうんじゃないけど…」
ディルムッドはディルムッドで、天然でそんなことを聞いてくる。まったく理解できないところで唯斗が悩んでいるため、そんな素っ頓狂なところに行きついてしまったらしい。
「適当な男なんだ、適当に頼めばいいだろう」
「エミヤは適当すぎる」
エミヤはいつも通りで、それも相手がキャスターだからか本当にどうでもよさそうだった。その隣に座るサンソンは、同情の目を唯斗に向けた。
「僕はマスターのお気持ちが分かります、が…僕にも正解は分かりません。恐らくは、正確に状況と必要性を説明することが無難でしょうが、長々と話すと嫌がりそうですね」
「そうだよな。やっぱサンソンだけだ分かってくれんのは…」
ため息をついてテーブルに肘をつく。するとそこに、立香とマシュがやってきた。唯斗の様子を見てさすがに声をかけてくる。
「唯斗?どうかした?」
「……立香か」
トレイを持った立香を見上げると、マシュがこんにちは、と挨拶してくれたため「おう」とだけ返す。当然のように立香はマシュの分もトレイに菓子類を乗せていた。休憩するのだろう。
「藤丸君は、たとえば剣術を学ばなくてはいけなくなったとして、それを私やエミヤ殿に教えてもらうとしたら、なんて頼む?」
すかさず、アーサーが唯斗の立場を置き換えて立香に聞いた。唯斗も聞こうとしていたが、やはりアーサーの方が上手だ。
「え、普通に教えて〜って頼むけど」
「普通…普通ってなんだ……?」
そしてやはり立香の答えは予想通りで、コミュニケーション能力の高い立香にも分からない類の質問だった。
「唯斗は俺のサーヴァントに何か頼み事あるの?」
「…キャスターに、魔術の訓練見てもらいたいんだ」
「じゃあ俺が言っておこうか?」
それは確かに円滑な手だろう。マスターである立香から事前に話を通しておくというのは、別に不自然なことではない。もちろん、立香には別途声をかけるつもりではあったが、会社などであればむしろこういうやり方の方が普通だろう。
「……いや、ちゃんと俺から言わないとだろ。世話になるのは俺だ。俺が頭下げるべきだ」
「…そっか。じゃあ、もしキャスターに断られたら言ってね、令呪使うから」
「何言ってんだ…でも、ありがとな」
あまり言い慣れない言葉だっただからだろうか、気恥ずかしくて目線をそらしてしまった。失礼だったかもしれない、と思っていると、立香が小さく笑う声が頭上から落ちてくる。
「唯斗ってほんと、そういうとこマジであざとい」
「藤丸君に同意するよ」
「私も同意する」
「僕も左に同じだ」
その立香の言葉に対して、アーサー、エミヤ、サンソンからなぜか同意が返される。
なんのことか分からずにいると、マシュが微笑んで口を開く。
「唯斗さんは、まっすぐで誠実な方です。キャスターさんも、唯斗さんのそういうところを理解されていると思うので、ありのままの唯斗さんの言葉で受け止めてくれるのではないでしょうか」
そんなマシュの言葉に、立香は「マシュの言う通り!がんばれ唯斗」と返して二人で並んで空いたテーブルに向かった。
一方、アーサーたちは苦笑する。
「完敗だね。彼女の言う通りだ」
「盾のお嬢さんはとても素直に世界を見ている」
アーサーとエミヤの言葉は、唯斗も頷けた。マシュに言われて、唯斗はようやく、恐れずに言ってみようと思えた。きっと、マシュの言葉だからそう思えたのだ。
「…此度の現界は、とても運がよかったようです。良いマスターに巡り会いました」
聞いていただけとなっていたディルムッドにそう言われ、唯斗はどう反応すればいいか分からなくなる。
サンソンも、「大丈夫ですよマスター」と言ってくれた。こんなことでこれほど悩む必要はなかったのかもしれないが、私的な頼み事をするのも、こうやって相談に乗ってもらうのも、思えば生まれて初めてと言っても良かった。
そんなことができる相手は、今まで周りに誰もいなかった。
世界が滅びて初めて、唯斗は人として成長し始めたのかもしれない。