サーヴァントの距離−6
そうして午後、打ち合わせを終えて訓練に出る前に、キャスターのところに向かった。
カルデアの中を少し歩いてしまったが、外が見られる地上階の廊下にいるのを見つける。
窓の外の吹雪を見つめる精悍な横顔は、5メートル先から唯斗に気付いてこちらを振り向く。
「お、もう一人のマスターじゃねぇか。どうした?」
「あー…ちょっと、頼みがあって」
キャスターの隣まで行き、高い位置にある赤い瞳を見上げる。
「魔術の強化をしなきゃならないんだけど、カルデアのキャスタークラスで頼めるのがあなたしかいなくて…もちろん、神代のルーン魔術と俺の魔術は結構違うのは分かってるから、強化訓練の監督っていうか、魔力の展開のあたりを特に、見て欲しくて。契約してるマスターじゃないから、ほんと、その、頼みつかお願いつか、全然断ってもらってもいいようなモン…とは言い難いけど、なんていうか、」
「…ふは、必死か。お前がそんなんなるの初めて見たな」
次第に何を言っているのか分からなくなってきて、着地点が見えなくなったところで、キャスターはそう笑った。そして、ガシガシと頭をかき混ぜる。
「うわ、」
「ん〜、可愛くおねだりしてくれたら気持ちよく引き受けられるかもなァ?」
「か、可愛く…?悪い、俺、女じゃないし、可愛いと形容されて然るべき幼少期にも言われたことねぇから…それはできない……」
「バァカ、最初からくっそ可愛いっつの。いつでも教えてやるし、マスターじゃなくても頼みぐれぇ聞いてやるよ」
するとキャスターはそんな言葉とともに、唯斗の腰を抱き寄せた。ニッと笑ったキャスターの顔が至近距離に迫る。
しかしその直後、突然現れたエミヤが剣を突きつけた。キャスターは動じる様子もなく、呆れたように切っ先を見つめる。
「霊体化して見守りとは、ちょいと過保護なんじゃねェのか?」
「適切だっただろう、結果的に」
キャスターは手を離し、両手を上げてエミヤをからかうように見遣る。
「意外とお前、過保護だよな。言動ではサバサバしてるくせに」
「私のマスターはややガードが緩いのでね」
「…え、今の攻撃モーションだったのか……?」
結界を展開するべきところだったのだろうか、と思って尋ねると、キャスターが噴き出して、エミヤは剣を消しながらため息をついた。
「え、なんだよ」
「はっはっは、こりゃ確かにな。気苦労が絶えんだろう」
「それが心地よく感じ始めているのだから手に負えない。マスター、その認識は誤りではない。次同じようなことをされたらガンドでもなんでもかましてやれ」
「それガードじゃなくて攻撃じゃねェか。ま、いいや。唯斗、とりあえず明日にでもやるか?まずは集中的にやるべきことを、次のレイシフト先の特性から考えるところからだろ」
「あ、あぁ、そうだな。頼む」
キャスターは頷くと、手をひらひらとしながら廊下を歩いて去って行った。
とにもかくにも、無事、キャスターに頼むことができた。エミヤはあの場で一番適当だったわりに、唯斗についてきてくれていたのだろうか。
「…よかったな、マスター」
「…ん。悪いな、こんなことまで気に掛けさせて」
「好きでやっていることだ」
ふっと小さく微笑み、エミヤは「シミュレーターに向かうとしよう」と促す。
ディルムッドは良いマスターに出会えた、と言ってくれたが、こちらのセリフだ。
彼らに出会えてよかったのは、唯斗の方なのだ。