大都会のシルヴァンドル2−6


そんな会話をしながら夕食を終えると、時間も遅いから泊まっていけ、と言われてしまった。
さすがに泊まったことは今までもなく、最初は断ろうとしたが、押し切られてしまった形だ。ちょうど明日は土曜日で学校が休みということもあった。
風呂まで最初に通されてしまい、シャワーだけとはいえ恐縮しつつ最初に借りれば、ギャラハッドの服を貸してもらうことになった。

脱衣所にて、タオルを籠に入れて、ギャラハッドから借りた服を手に取る。普通の長袖Tシャツにジャージだったが、少し大きい。身長差以上に体格差によるものだろう。
少しだけ悔しくなりつつ、借りた服を着て髪を乾かしリビングに戻る。


「先に借りて悪い、ありがとな」

「いえ。やっぱり少し大きかったですね」

「喧嘩売ってんのか?」

「じゃあちゃんと食べてくださいね」


ソファーから立ち上がったギャラハッドはその目に本気の心配の色を浮かべて言ったため、唯斗は口を噤む。ランスロットは自室にいったん下がっていて、リビングには二人だけだった。


「…、そうだな。体壊して医療費かかったら本末転倒だしな」

「そういうことではありませんが…まぁ、いいです。これからは一緒にいるので、僕がきちんと見守ります」

「なんだそれ…」

「言葉通りですよ。では僕もシャワーしてきます」


そう言って、ギャラハッドもいったん自室に戻っていった。
いくらなんでも、友人相手にここまで気に掛けるのは優しすぎるのでは、と思うのだが、頑なに拒否することでもない。

唯斗はソファーに座って、なんとはなしに夜景を見つめる。いつ見てもすごいパノラマだ、と思っていると、外の暗闇の中に、リビングにランスロットが入ってきたのが反射して見えた。
そちらを見上げると、ランスロットは微笑んで唯斗の右隣に座った。

上質な革のソファーはランスロットの重さでずっと沈み、唯斗の体が傾きかける。それを踏ん張りつつ、近い位置に座るな、と余った端を見て思っていると、ランスロットが口を開いた。


「今日は来てくれてありがとう」

「え…そんな、俺こそ招いてもらってありがとうございます」


こちらの礼は受け取りつつ、ランスロットは宙を見つめた。テレビがついているわけでもないため、ギャラハッドがシャワーを浴びている水の音だけが聞こえる静かな空間だ。


「…息子と同じキッチンに立つのは、私の一つの目標だった」

「っ、ランスロットさん…?」


動揺が声音に出てしまった唯斗に、ランスロットは苦笑する。


「君には最初に情けない姿を見せてしまったからね、いまさら取り繕わないさ。キッチンで並んで立つことすら、私は怖かった。ギャラハッドに不味いと言われるのが怖くて、料理を勉強していたほどだ。いつか一緒に生活することになったときのために、なんて思っていたくせに、結局、一緒に暮らすことを提案したのは母だった。私からは切り出せなかったんだ」

「そりゃ、言葉選ばずに言えば、どの面下げてって話ですからね」

「その通りだ。母はそこまで織り込み済みだったことだろう。こうして生活し始めて、料理ができるくらいで父親面するつもりだった自分に呆れたものだよ。あまりに私の考えは甘かった。だから…」


ランスロットはそこで言葉を止めると、こちらを見降ろした。アメジスト色の瞳が唯斗を映す。


「…今日、こんな笑い合って食事ができると思っていなかった。まるで家族のようだ、なんて思ってしまう自分がいて…私がギャラハッドにした仕打ちを忘れることは決してないけれど、少しだけ家族になれたように思えた」


揺らいだその瞳を見て、唯斗は無意識に、その目元に手を伸ばしていた。ほんの少しだけ生ぬるい水滴を親指で受け止めて、本当に不器用な男なのだと理解した。
なんでもできる、なんていうのは、この男の不器用さの裏返しでもあったのだろう。



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