大都会のシルヴァンドル2−5
そうして夕食の準備ができると、魚介スープとバゲットのガーリックトースト、白身魚のソテー、サラダ、オムレツという豪勢なメニューとなった。彼らにとってはありふれたものだろうが、唯斗にはこれだけの品数を一食で用意するなんてことはありえない。
どうやらランスロットはなんでもできるタイプの人間のようで、料理の腕前もそこら辺のレベルではなく、一口で美味しいと分かる腕前だった。
特にフランス料理のレストランは卵料理で、ケーキ屋はシトロンで分かると言われるが、このオムレツの美味しさは店を開けるのでは、というほどだった。
「やっぱりランスロットさんってなんでもできるんですね…」
「はは、お気に召していただけたようで何よりだ。若い子は味が濃い方がいいかと思ったんだが、それだとたくさん食べられないだろう」
「いえ、バランスも良くて嬉しいです。ありがとうございます」
ギャラハッドもランスロットの料理の腕前には文句はないらしく、黙々と食べている。
そうしてしばらく他愛ない会話をしながら食事を進めていると、ランスロットが学校の話を切り出した。
「そうだギャラハッド、今日から授業だったんだろう。どうだった」
「…やはり日本語は難しいので、唯斗さんのお手を煩わせてしまっています。その上、昼食を用意するのまで忘れてしまい……」
「そういえば公立の学校はカフェテリアがないんだったね。今日からだったのか」
「すみません、俺が確認し損ねてて」
ランスロットも昼食については想定外だったらしく、いまさら気付いた、と顔をしかめた。すぐにギャラハッドの様子を窺う。
「それで、どうしたんだ。まさか食べなかったのか?」
「いえ。外に買いに出ました」
「そうか。うん?だが、都心の学校だから、遊びに行かないようルールで外出禁止と謳っていなかったか?」
自由こそ第一のフランスでは考えらえない「校則」の厳しさだが、公立は緩い方だ。それに、都心に位置するため遊びに行かないように、というのは一定の合理性がある。
ランスロットもそれに文句はなかったようだが、それではなぜ外出できたのか、という疑問に思い当たったようだ。
「ええ、禁止です。ただ、背に腹は代えられないので、唯斗さんのご案内のもとこっそり出ました」
唯斗はギャラハッドの言葉に続けてランスロットに申し訳なさそうな表情を作る。もちろん、申し訳なさなどない。
「すみませんランスロットさん、ギャラハッドをワルの道に進めてしまいました」
「僕はもう真面目一辺倒で品行方正な生徒ではないのです」
そう言った二人の言葉にランスロットはポカンとしてから、おもむろに噴き出した。
「っ、ふふ、そ、そうか、はは、はははは!」
ギャラハッドも自分で言って面白くなってしまったらしく、ランスロットほど豪快にではないが笑いだす。笑うときに口元に手をやる仕草がひどく似ていた。
初めてこの二人をバイト先で見たときの険悪さからは考えられない光景だ。
ランスロットはひとしきり笑うと水を飲んでから、優しく表情を緩める。
「楽しんでいるならよかった。なに、怒られそうになったら文化の違いのせいにすればいいさ。確かめようがないからね」
「怒られるときは一人で怒られろよ」
「僕に悪いことを教えたのは唯斗さんだと包み隠さずに報告しましょう」
「この野郎」
隣に座るギャラハッドに肘打ちを軽くかませば、ギャラハッドはくすくす笑ってそれを受け止めた。