大都会のシルヴァンドル2−7


「家族なんて、いろんな在り方があるんだと思います。俺だってまともな家族なんて知らない。ランスロットさんはランスロットさんの家庭を築けばいい。でも、普通の家族像に憧憬を抱く気持ちも分かります。俺だってそうだったから。そういう感情ひとつひとつ、もっと大切にしていいと思います…俺から見て、二人は家族ですよ」

「っ、ありがとう…君と話していると、『星の王子様』と話しているようだ」


素直に思ったことを言ってみると、ランスロットは唯斗の手をそっと握ってそんな詩的なことを言い始めた。唯斗はそんな大層なものではない、と思いつつ、ちょうどいい言葉があったと思いだす。


「Il est bien plus difficile de se juger soi-même que de juger autrui」


自分自身を裁く方がずっと難しいよ、他人を裁くよりもね。
星の王子様に出てくる台詞の一つだ。ランスロットはそれを聞いて目を見開く。


「ギャラハッドとのことを、ランスロットさんは決して他人のせいにしないで、自分の責任だと思ってきた。誰のことも責めずに全部自分が悪いって思うことは、もしかしたらそれはそれで逃げなのかもしれないけど、誰かのせいにするよりずっと難しいことなんじゃないですか」

「そ、うだろうか…あぁ、だからどう、ということはなくても、そう思うと、少し救われた気になるな」

「そんなもんでいいと思いますよ。少なくとも、ギャラハッドは多分、もう大丈夫です」

「それも君のおかげだ」

「俺はそんな大層なことしてないんで…」


あまり持ち上げられてしまうと、どうすればいいのか分からなくなる。
ランスロットはそれを察して小さく笑うと、包むように握っていた唯斗の手から手首、腕へと手を滑らせる。
ギャラハッドの服の袖が余っており、指先しか出ていなかったが、手首まで晒された形だ。


「…ふむ、確かに細いな。本当にちゃんと食べているのか?」

「た、食べて…ないときもありますけど、大丈夫なんで、」


ランスロットの捲られたシャツの袖から見える太い腕に比べて何周も細い自分の腕が気になって、唯斗は慌てて手を離して袖を戻る。先ほどは袖が余ったことにイラっとしたが、今は助かった。


「すまない、からかうつもりではないんだ。純粋に心配してしまって」


ランスロットが本当に心配してくれているのだということは嫌と言うほど理解しているため、唯斗は子供っぽいことをしてしまった、と内心で反省する。
一方でどう反応すればいいか分からず、それをそのまま伝えることにした。


「…、すみません。俺も、こうやって心配してもらうことって経験なくて、どうリアクションすればいいのか分からないんです」

「っ、そうか…いや、答えは簡単だよ」


一瞬、ランスロットは言葉を詰まらせたが、そこはさすがと言うべきか、すぐに切り替えた。
そして、答えは簡単だ、と言うなりランスロットは、唯斗をおもむろに抱き締めた。

その分厚い体に引っ張られ、すっぽりと抱き込まれてしまう。
身長差も体格差もあるため、胸板に顔が押し付けられるような形になった。驚いて体を固くしていると、ランスロットはあやすように背中を撫でる。


「素直に甘えてくれればいい。頼ってくれればいいんだ」

「ッ、ランスロット、さん…」


ギャラハッドに抱き締められたときは、落ち着くものだった。同じ空気感というか、近しい人物であるため、とても落ち着くように感じられた。
一方、ランスロットの腕の中は、安心するような感じだ。知らず体が弛緩して、なんだかひどく安全な場所にいるような、そんな感覚になる。

おずおずと、シャツをそっと指先だけで掴んで胸元に擦り寄ってみると、ランスロットが頭上で微笑んだのが気配で分かった。

誰かにこうやって凭れたことなどなかった。寄りかかったこともなかったし、それは精神的にも物理的にもなかったことだった。


「…、なんか、眠くなってきた」

「ふ、それなら寝てしまいなさい。ギャラハッドも何も言わないだろう」

「……ん、すんませ………」


急速に睡魔が首をもたげる。最近、未成年に許されるギリギリの水準でバイトのシフトを入れていたことや、掛け持ちしているコンビニでの夜のシフトが忙しいこともあって、抗いがたい眠気だった。
ランスロットに促されて目を閉じれば、一瞬で意識が遠のいた。



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