大都会のシルヴァンドル2−8
5月の連休を過ぎた頃、日本支社の様子を見にランスロットのところへ友人が訪ねてくることになった。
ランスロットにとっては一番の友人であり同僚であり、キャメロットグループにおいて同じく若き重役を任せられている人物だ。
ガウェイン・オークニー、大学の寮からの仲であり、ランスロットを巡るすべての事情を知っている。グループ内の金融会社で役員になっていて、金融系のグループであり、その中核企業での役員人事だったことから、シティでも話題になった。
同じグループの証券会社の日本支社立ち上げという大きな事業であることもあって、ガウェインはビジネスとして日本を訪れているが、その最大の目的は、ギャラハッドとランスロットの二人で暮らし始めたことを受け様子見に来たのだろう。
案の定、家に来るかと誘えば、東京支社での用事よりもこちらの方を優先して日程を調整していた。
そうして晴れた初夏の土曜日、ガウェインが家を訪れた。
「久しいな」
「ええ、お元気そうで何より。素晴らしい物件ですね」
建物のエントランスで出迎え、部屋まで通すと、リビングに入ったガウェインはパノラマに目を見張ったあと、ソファーから立ち上がったギャラハッドににこりと微笑む。
「お久しぶりです、ギャラハッド。変わりありませんか」
「お久しぶりです、ガウェインさん。おかげさまで」
ランスロットはアイスのブラックティーのグラスを出してから、ギャラハッドの隣に座ってガウェインと向かい合う。
ガウェインはまずリビングの外に広がる大都会の光景を見て息をついた。
「東京は初めてではありませんが、いつ来ても大きな街ですね。素晴らしい眺めです」
「機能面で選んだ住宅だったが、私も当たりを引いたと思ったよ」
しばらくはそんな世間話に興じる。それも紳士のたしなみだ。いきなり本題に入るような無粋な真似はしない。ギャラハッドもそのあたりは心得ており、当たり障りない会話が続いた。
そして30分ほどしてグラスが解けた氷で紅茶を薄め切ったころ、ついにガウェインがギャラハッドに切り出した。
「ギャラハッド、東京での学校生活はどうですか。不慣れなことも多いでしょうが、インターに通っているのですよね?」
「いえ、公立の高校に通っています」
「公立の?日本の高校はそんなにも英語に対応していたのですか?」
「そこはまったく。ただ、英語とフランス語ができる友人がいまして」
「ほう、それは」
ガウェインは純粋に驚いていた。ギャラハッドが公立を選んだ思惑はなんとなく理解しているだろうが、それをランスロットが許したこと、そしてそんな生徒が日本の高校にいるという偶然に驚いているのだろう。
「…素敵な縁があったのですね」
「はい、とても」
「こればかりは、神に感謝しているよ。思わず国籍法を調べてしまった」
「それは良い心がけですね、僕が唯斗さんと欧州で暮らすときに参考にするので後で教えてもらえますか?」
「残念ながらフランス国籍は取得できなさそうだから、フランス法に準じて移民できるよう手配しておく。ギャラハッドはそこまで気にしなくて大丈夫だぞ」
「まったく、よくもまぁ臆面もなく犯罪予備軍なことを言えたものです」
「だから合法な手段を検討しているんだろう?」
「誇張して唯斗に告げ口してドン引きさせてあげます」
「もう伝え済みだ。すでに引かれた後だから心配無用だよ」
「うわ…」
そうやってギャラハッドとぽんぽんと会話していると、ガウェインは呆気に取られていた。そういえば放置してしまった。ギャラハッドも気づいたのか、慌てて居ずまいを正す。
二人がガウェインに意識を戻したことに気付き、ガウェインも呆けていたのを正して、薄いであろうブラックティーのストローを啜った。
それから口を離すと、一呼吸を置く。
「…、随分と仲が良くなったのですね…?」
「それは錯覚です」
「…何かが劇的に変わったとか、私を息子が許したとか、そんなダイナミックなことはない。けれど、私もギャラハッドも、日本にやってきたことを良かったと感じているのは一致している」
「……ええ、それは同意します」
ギャラハッドも表情を緩めて同意すると、ガウェインはやはり驚いたようにしてから、少しだけ目を伏せる。そして、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ…そうですか。本当にそれは、良かった。CEOにも良い報告ができます。本当に…本当に素敵な縁があったのでしょう。私もぜひ、その方にお会いしてみたいものです」
「それはだめだ」「それはだめです」
ガウェインの言葉に、ランスロットとギャラハッドの声が重なった。こんなことは初めてだ。
ガウェインはポカンとしてから、小さく噴き出した。
「その顔、そっくりですよ」