長編番外編−ジャンクナイト
悪性隔絶魔境新宿I
ハンバーガーを食べる立香と主
アルトリアのねぐらはファーストフード店の地下階にあるため、ここで食べられる食事もハンバーガーなどのファーストフードということになった。
今まで様々な特異点で様々なものを食べてきたが、まさかこういうハンバーガーを食べる日が来るとは極めて不思議な感じがする。
1階の店舗フロアにて、暗い室内で立香と二人カウンターに並んで座る。アーサーは店の入り口付近で外の警戒にあたっているが、ハンバーガーに興味を示したアーチャーも上がってきたため、警戒も何もないのでは、とも思う。
「それにしても、確かに労働階級の食べ物らしい体に悪そうな見た目をしているネ」
アーチャーはそう言いながらしげしげと立香が手に持つハンバーガーを見遣る。カウンター席に並ぶ二人の脇に立ってカウンターに凭れているアーチャーだが、それでもなお、あまり二人と差が縮んでいない。
立香は包装紙を開きながらアーチャーの言葉に答える。
「そりゃファーストフードだからね。オジサンは体に悪いから食べない方がいいよ」
「ぐふっ」
立香の何気ない言葉が突き刺さり呻くアーチャーを放って、唯斗と立香は包装紙から現れたハンバーガーを見つめる。
恐らく同じことを考えているだろう。
「1年以上ぶりのハンバーガーだね…」
「あぁ、それも見るからに安いやつ」
そう、とてつもなく久しぶりのハンバーガーを前に、なぜか感慨深い感動めいたものを感じていたのである。
もちろん、カルデアの外の世界が元に戻った今、カルデアから出られることがあれば食べる機会もあるだろうが、とはいえ二人が次いつカルデアを出ることができるのかは全く不透明なままだ。
こうして特異点で現代の食事ができる、というのはとても良い機会ですらあった。
そして二人は、揃ってハンバーガーにかぶりついた。
途端に、バンズを破ってパティから肉汁が溢れる。安く低品質な油の味とともに、ケチャップや香料の体に悪そうな調味料の味も合わさって、食べ慣れていたはずの味を脳が鮮烈に思い出す。
飲み込んだ唯斗は、思わず「あ〜」と声を出した。
「この体に悪そうな味、最高だな…」
「う〜ん、エミヤとかタマモキャットとかには悪いけど、やっぱこういうインスタントな味もいいよね…」
「不摂生が体に染み渡る…」
「安くて体に悪いからこそ良いんだよなぁ…」
「vive l’hamburger」
口々にハンバーガーを礼賛していると、アーチャーはさすがに困惑したようにする。
「それって褒めてるのか貶してるのか分からないよボーイたち」
「褒めてはねぇな」
「これが良さなんだよアーチャー」
食べ進めるごとに良くないものを摂取している感じが重なっていく。
一方、唯斗は一応口封じをしておくべきか、と立香の通信機に向かって呼びかける。
「ダ・ヴィンチ、マシュ、このことはエミヤたちには内緒な」
『おや、唯斗君にしてはそこに思い至るのが遅かったんじゃないかい?』
「え」
ダ・ヴィンチが面白そうに返した直後、通信機から低い声が聞こえてきた。
『すべて聞かせてもらったぞマスター。どうやらまだ教育が足りなかったらしいな』
「げっ、エミヤ」
なんとエミヤが管制室にいたのである。運が悪かったのか、とげんなりしていると、食事時となりきちんと二人が食べられる環境にいるのか心配して管制室を見に来たのだと察して、少し良心が痛む。
「あー…ほら、俺エミヤの料理が一番好きだから、ちゃんとエミヤの料理でしっかり栄養とってる前提でのことだから、な?」
『いや、私も甘すぎたようだ。つい君には甘やかしてしまうからな、グランドオーダーも終わって外部からの物資もある、しっかりと食育を行わせてもらうぞ』
「っ、それ立香もだよな?立香も同罪だよな?」
「いや俺は野菜でもなんでも食べるし」
「お前裏切るのかこの野郎」
ちゃっかりエミヤの食育という名の野菜克服訓練から逃れる立香だが、そもそも逃れる必要がないくらい好き嫌いせず食べている。
とはいえ立香は、「ためになりそうだから」と唯斗に付き合ってくれるらしく、エミヤに楽しみにしていると返していた。
なんだかんだ優しい立香に、立香もいるならまだマシか、と思った唯斗だったが、その後の女装を唯斗が回避したことで立香は個別に授業を受けると言って、結局唯斗は一人でエミヤに野菜摂取週間を設けられることになったのだった。