長編番外編−無意識
1.5部バレンタイン後日談
バレンタインでひどく甘い一日を過ごしてから数日後、唯斗は昼食時に食堂を訪れた。
サンソンとディルムッド、そしてアーラシュに見せたいものがあったからだが、食堂に入ってすぐにメイヴに声をかけられた。
「ちょっと唯斗、あんたその肌つや、良い化粧品じゃない。どこの?」
「え、一発で分かるのか」
「当然でしょ?女舐めんじゃないわよ。まぁ、カルデアの女は美に気を遣わないから嫌になるけど」
メイヴは女性陣のファッションリーダーのようになっており、高飛車な姿勢は努力に裏付けされたものとして好感を持たれているようだった。
あまりそういうことに明るくない立香も唯斗も、単純にすごいとしか思えないのだが、メイヴは「ガキはそんなもんよね」ととんでもなく失礼なことを言っていた。
「でも、メイヴも他の女性サーヴァントも、みんな何もしなくても十分綺麗だろ」
「カ〜〜〜ッ!やだやだ!これで天然なんだもん、マスターもこいつも!」
純粋に疑問にそう思って唯斗が言うと、メイヴも、そしてその近くにたむろしていたエリザベートやマタ・ハリ、アタランテも頷いた。
「あんたそれで故郷に帰ったらそれはもうすごいモテるから気をつけなさいよ、刺されるから。子ブタにもよく言っといて」
「その気がないのに相手をその気にさせるのは罪よ、唯斗さん」
「アキレウスに通ずるところがあるな、唯斗。美徳と言えばそうだが、そのあたりは今のうちにサンソンあたりに教えをもらっておけ」
「なんで責められてんのか分からないけど、とりあえず分かった」
「それ分かってないじゃない…で、どこの化粧品なわけ」
メイヴは最初に聞いたことを繰り返す。唯斗は名前を思い出そうとしたが、そこまで関心がなく忘れてしまった。
「…悪い、忘れた。ガウェインにもらったやつだから」
「はぁ?あの太陽の騎士?信じらんない、これだから男は。異世界とは言え仕える王の相手に化粧品プレゼントするってどうなの?」
「え、だめなのか」
「だめっていうかぁ、滲み出てんのよ、無意識の支配欲」
「そういうモンか…?」
正直よく分からなかったが、メイヴは化粧品のブランドが分からないのならもう用済みらしく、「ほら、用があるんでしょ。引き留めて悪かったわね」と言って追い払うように手を振った。
とりあえずそのテーブルを後にした唯斗は、ちょうど用事のある3騎が揃っていたため、少し離れたテーブルへと向かう。
唯斗が食堂に入ってきたことには当然気づいていた3人は、やってきた唯斗に手を振って招く。
どうやら3人とも一緒に食事をしようとしていたわけではないようで、たまたま一緒になって唯斗の様子を見守っていたらしい。現に、席に座っているのはアーラシュだけで、サンソンとディルムッドは通路に立っている。ちょっとした井戸端会議のようなものだろう。
「災難だったなァ、マスター」
唯斗のすぐそばの椅子に座るアーラシュはからりと笑う。あくの強い女性陣に絡まれたことを言っているのだろう。
「マスターも私のほくろの呪いとは違う、天性の人を惹き付ける才能がおありです。どうか女性にはお気をつけて」
「ディルムッドに言われると含蓄がありすぎるな…」
真剣なディルムッドに唯斗は思わずそう言ってしまった。サンソンは苦笑いを浮かべながら頷く。
そこに、食堂に入ってきたアキレウスもこちらを見て近づいてきた。唯斗のサーヴァントとて、一緒に集まって食事をする、という仲でもないため、固まっているのが珍しかったのだろう。
「なんかあったのか?」
「アタランテが、アキレウスみたいになるなって」
「え、俺なんかしたか。いい家庭築きそうだなって言ったときのことまだ怒ってんのか…?」
唯斗が大部分を端折ってアキレウスに伝えると、アキレウスは思い当たる節がない、と顎に手をやる。なるほど、こういうところか、と唯斗は少しだけ理解できた気がした。
全員が微妙な空気になったところで、唯斗は本題を思い出す。
「そうだ、見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの、ですか?その手に持っている?」
本題を切り出したことで、サンソンは気になっていたのだろう、唯斗が手に持っていたものを示した。
唯斗は頷いてそれらをサンソンとディルムッドに見せる。
「これ、サンソンがくれた百合とディルムッドがくれたバラを押し花にした栞なんだ」
「押し花ですか」
「なんと!」
手元を覗き込んだサンソンもディルムッドも驚いたようにする。唯斗がこういうことをするとは思わなかったのだろう。唯斗も、最初は考えになかった。
「なんか、枯れるの寂しくて、ダ・ヴィンチにどうすりゃいいか聞いたら教えてくれたんだ。歴史書とかは栞挟みたいところ多いから、いくつかあると助かるし」