長編番外編−無意識2
どうすれば花を残せるか、美と芸術については他の追随を許さない英霊であるダ・ヴィンチにアドバイスを求めたところ、「簡単なことだよ唯斗君」と言って教えてくれたのだ。なお、そばで聞いていた安楽椅子探偵に名台詞使用料を請求されていた。
そして、しっかりとラミネートつきで押し花を栞にする方法を教示してくれた。
サンソンは経緯を聞いて微笑む。
「ありがとうございますマスター、そうして形にしていただいて。残らないものの方が、と思った僕と違って、あなたはずっと僕たちの面影を傍に残してくれるのですね」
「そこまで深く考えてねぇけどな。ただ、うん、枯れて欲しくなかったんだ」
「我が主よ、あなたにここまで厚意を頂戴できるとは、恐悦の至り。お返しのつもりが、さらに返されてしまったようです」
ディルムッドもいつも通り重たい言葉だが、本当に感動したようにしていて、二人とも形に残してまで唯斗の心に居座るつもりはなかったのだと、この二人らしい優しさを感じる。
一方、はっきりと形に残るものをくれたアーラシュには、別のものを取り出した。
礼装の首元のベルトを緩めて内側から取り出したのは、ターコイズのネックレスだ。
「お、そいつは俺がやったヤツだな」
「うん。石だけってのもなんかなって思って。これもダ・ヴィンチに相談したら、10分でネックレスにしてくれた。ちなみに、このチェーンはカルナの甲冑の一部でできてる」
「ははは!とんでもねぇ聖遺物が爆誕したな!」
アーラシュは笑っているが、カルナにこの方法を提案されたとき、唯斗はスフィンクスのときと同じく卒倒するかと思った。
自分のサーヴァントに一通り渡して、アーサーとの時間を過ごしたあと、アーサーの監視のもと立香のサーヴァントの何人かにも渡して回ったのだが、その際、カルナは返礼にと自分の黄金の甲冑を削ると言い出したのだ。
すでに立香にはその方法でお返しをしているため、「差が出てしまう」と頑なだった。
施しの英雄の真髄を見てしまった唯斗に、さすがのアーサーも困っていたのだが、ちょうど、唯斗の依頼でアーラシュのターコイズをアクセサリー化するデザインを考えていたダ・ヴィンチが、カルナから同じような相談を受けていたことを思い出し、ダ・ヴィンチとカルナの共同で折衷案としてこうなった。
カルナが削る甲冑の分量をごくごく僅かにしつつ、ダ・ヴィンチはターコイズのネックレスを納品するために必要な材料を手に入れたわけだ。
「そんで、キャスターにも、バレンタインのお返しとしてこの石にルーンを封じてもらった」
「東方の大英雄が贈った宝石にインドの施しの英雄が施した黄金のチェーンをつけケルト最大の英雄に魔術を籠めさせるとは…」
さすがのサンソンも術具としてのクオリティの高さに引いている。魔術協会に持って行ったら、これは封印指定になりかねないレベルのものである。
「ちなみにどんな術式刻んでンだ?」
「回避の魔術。俺が反応しきれないような攻撃が迫ったときに、自動で結界が展開される仕組み。自分で魔術籠めれば意図的に発生させることもできる」
「さっすが原初のルーンだなァ」
アーラシュはそう笑ってから、その笑みを穏やかなものに変える。
「いやなに、俺もただ渡すことしか考えてなかったモンでな。そうやって身につけるような代物に変えてくれるとは、存外、嬉しいものだな」
「いや、俺もアーラシュからもらったものを礼装の一部として身につけられて嬉しい。ずっと一緒にいるみたいで」
「っ、ったく。素でそういう可愛いこと言えちまうんだもんな〜、マスターは」
珍しく、アーラシュは笑いながらも口元を手で隠して顔を逸らした。照れている。この男のこういうところを見られるとは思わず、唯斗は意図せぬ反応に驚いた。
そこに、アキレウスがため息をつく。
「あー、俺もそういうモノにしとけば良かったぜ。そうやって大事にしてもらえんなら、マスターのそばに寄り添えるものを用意したかった」
「初手で自分の盾渡そうとしてくるヤツが用意したものとか、絶対やばいだろ。カルナとは違った意味で意識飛ばしそうだから、アキレウスはほどほどにしておいてくれ」
本当にアキレウスは何をしでかすか分からない。だがアキレウスは納得していなさそうだ。
「座に還ってからも、あんたが俺の渡したモンそばに置いてるって思ったら満足するだろ」
これが大英雄か、と恐らくこの場の全員が思っている。特にサンソンはそうだろう、アーラシュとディルムッドもアキレウス側の英霊だ。
それでもなお、アキレウスのこの自然と無意識に自分が先に出る価値観はなかなかない。まさに絵に描いたような英雄だ。いや、事実として絵に描かれてきた英雄なのだが。
先ほどメイヴが言っていたことも大きく頷ける。
そう思ったらなんだか笑えてきて、唯斗が小さく吹き出したのを境にサンソンとディルムッド、アーラシュも肩を震わせた。
心配せずとも、こんな思い出、死ぬまで忘れることはないだろう。