長編番外編−刺客は笑う
新宿後
麻雀をする立香、ロビン、ビリーと主、燕青
「唯斗!今日オフだよね?ちょっと時間ある?」
魔神柱の残党を探すための待機期間、オフに指定された日をいつも通り図書室にでも行こうかと考えて廊下を歩いていると、立香にそう呼び止められた。
何か用事かと振り返ると、立香の他にロビンフッドとビリーという見慣れた二人がいた。
「どうかしたか?」
「麻雀やろうよ!」
「…麻雀?」
何かと思えば、麻雀の誘いだった。確か、レクリエーションルームのボードゲームブースにあった気がする。
三人でもできる遊びだが、四人でやりたかったらしい。
特に断る理由はなかったが、唯斗はそもそもルールを知らない。
「俺ルール知らないけど、それでもいいなら」
「大丈夫大丈夫!俺もまだあんまよく分かってないし」
立香がそう言うなら、ということで、唯斗は立香たちについてレクリエーションルームに移動し、麻雀卓を囲んだ。
ロビンフッドもビリーも、この手の遊びは総じてうまそうだ。
目の前に広がるテーブルの様子がまったく分からず、思わず唯斗は右隣のロビンフッドを見遣る。
「…ロビンフッドとビリーはどんくらい得意なんだ?」
「いやあ、そんなでもないですよ」
「僕もそこまで得意ってわけじゃないなぁ」
「絶対嘘だろ…」
「うん、嘘だよ唯斗。俺この二人にボコボコにされてるから」
曖昧に笑う二人は案の定で、立香はそう言いつつロビンフッドとともに準備を終えた。
正面、いわゆる
対面の立香が親という役職で始まるらしい。
ロビンフッドはまったく分からずにいる唯斗を見かねて、説明に入った。
「いいですか唯斗さん、この麻雀はマスターに合わせて日本式だ。この牌を、3つで一つの役に揃えて、合計14個の牌で特定の形式に合わせる遊びってわけ。分かります?」
「ポーカーが5枚で1セットのところ、麻雀は3牌で1セットが計4セット、加えて2牌、ってことか?」
「相変わらず理解が早いですねあんた…」
「やっぱ唯斗はやってるうちに理解できちゃうタイプだよね」
そうは言っても、ポーカーと同じく、その「役」を覚えていなければ意味がない。
仕方なく、手持ちのタブレットで役の一覧を検索して見ながらやることにしたものの、数が多くて極めて複雑だ。
そうして東風荘で教えてもらいながら何戦かしたものの、まったく上達できる気がしなかった。
「これ…ひょっとしてポンとかチーって無意味か…?」
「無意味じゃないけど、初心者はやらない方がいいね〜」
「早く言えよ」
ビリーはクスクスと笑いながら「それロンだよグリーン」と言って上がった。唸るロビンフッド、どういう基準か分からないまま持っていかれる点棒。
立香は「俺の名前って立直に似てるから実質スキルとして恒常的に発揮できるとかない?」などと言い出している。なお、立香は「カンの虜になってますわ、アレ」とロビンフッドに称されていた。そういう時期があるらしい。
結局一度も上がれないまま1時間ほど経過し、だんだん唯斗は内心で苛立ちつつあったが、そこに救世主が現れた。
レクリエーションルームに入ってきた人物を見て、すかさず唯斗は声をかける。
「燕青、ちょっといいか」
「お、なんだい麻雀かい?」
何やら立香を探していたようだったが、興味はすぐに麻雀に移ったようで、こちらにやってくる。
「燕青、ちょっと全然勝てねえから助けて欲しいんだけど…や、面倒だったら全然いいんだけどさ」
「いいよぉ。面白そうだし」
そう言いつつこちらにやってきた燕青だったが、唯斗の手元を見てしょっぱそうな顔をする。
「あァー…そりゃ負け筋だわ」
「え、一発で分かるモンか?」
「だってお前さん、残り20切ってて字牌ばっかって…そりゃもう今からじゃきつい」
そう言うと、燕青は唯斗が捨てた牌を少しだけ吟味してから、唯斗の背後に回り、後ろからテーブルを指さした。
その晒された上体が唯斗のすぐ背後に迫り、長く美しい髪がさらりといく束か揺れた。
「大方ここで索子を諦めたな?」
「すげ、そこまで分かるのか」
「分かりやすいってだけさ。ふむ、次これ捨てな。これとこれはキープ」
すると、見かねたのか燕青は唯斗の手持ちからいくつかを指示した。時代や地域でルールが変わるものだが、燕青はばっちり現代日本式のルールを控えているようだ。
「唯斗ずるい!てか燕青もマスター差し置いてなんで唯斗の方助けてんの!?」
「んー、可愛げ?」
「それは否めない…」
「何言ってんだ」
燕青は新宿でサーヴァントとしての存在を確立させたため、ある程度新宿での記憶はあるようだった。とはいえ、あの新宿での燕青はそもそも人格が混ざりあって自分でも自分が分からなくなっていた。そのため、いくらか曖昧になっている部分も大いにある。
そしてあの新宿で、唯斗はさほど燕青に気に入られるようなことはしなかったはずだが、燕青はなぜか可愛げがあるからだと抜かした。
燕青は次の牌を「それは捨てちまいな」と指示してから、至近距離でこちらを見降ろしてニヤリとする。
「あァ、ちなみにあんたの可愛げっつーのはアレだ、新宿で騎士王とイチャコラしてるとこ見て思ったってだけ。戦闘時とはずいぶんギャップがあるんだなぁ?」
「な…っ」
「今も、助け求めてすぐに申し訳なさそうにする感じとかな、うん、あれだな、あざとい!」
「ほー、水滸伝きっての美男子は審美眼もおありなようで」
「これ以上ない適切な言葉だねぇ」
ロビンフッド、ビリーと相次いで同意を示す。立香もうんうんと頷いている。
本当に大して話してもいないのにこんな評価をされるとは思わず、唯斗はつい微妙な顔をしてしまうが、ふと燕青は次の牌を手に取って「お、」と声を出す。
「ほら見てみろ、行けるぞ」
「…え、マジだ」
「そぅら言ってやんな」
「ロン!」
「ツモだぞ〜」
「ツモ!」
なかなか絶望的な状況だったはずなのに、燕青は鮮やかに唯斗を上がらせてくれた。
しかも、点数がかなり高いようだ。
「字一色で裏ドラ3つって、さっきカンしたからですよマスター…!」
「くっそー!さっきカンするんじゃなかったー!!」
またも呻くロビンフッド、カンから目覚める立香、無言で大きく息を吐きだすビリー。大量の点棒を受け取りつつ、何が起きているのか分からないものの、上がれたことだけで達成感があった。燕青の手柄だが。
「よっしゃ、初めて勝てた…!ありがとな、燕青」
「はは、あんたも筋がいいからすぐ上達するぞ〜」
ニッと笑った燕青だが、恐らくお世辞だろう。唯斗はそれを承知で礼を言いつつ席を立つ。
「俺の代わりに、負けた分だけこいつらボコボコにしてもらってもいいか?」
「お、別にいいけど、いいのかい?」
「あんたもウズウズしてんだろ。緑一色でも九蓮宝燈でも決めてやれ」
「…はッ、いいねぇ」
唯斗の言葉に、燕青は一瞬虚を突かれたようにしてから、ニヒルな笑みを浮かべて席に着いた。
生前ぶりだろう麻雀の機会ということもあるし、何より、燕青もきっとこのメンバーと馴染みが良いはずだ。
そう思ってのことだったが、まさか本当に完膚なきまでにボコボコにするとは思わず、立香が孔明や陳宮、さらにはアルジュナまで引っ張り出して幸運値勝負をし始めたあたりで、異次元の麻雀となっていったのだった。