長編番外編−絵心と真心


新宿後
絵が下手な主と鯖たち


第七特異点の報告や観測結果のまとめなど、そうした資料の整理は他の特異点と比べて遅れていた。
それもそのはず、帰還してすぐに時間神殿の攻略、それが完遂されてからは魔術協会の使節団への提出資料作成と新宿へのレイシフトが続いた中で、そんな時間はなかったのだ。かろうじて、魔術協会に提出する分だけ整っている。

そこで、新宿から帰ってからようやく、カルデア内部での資料の整理が始まった。

会議室にて、立香、マシュ、ダ・ヴィンチと唯斗の四人で観測結果と実際にレイシフトした3人が見たデータとを照合していると、ダ・ヴィンチが「うーん」と唸った。


「一通り情報は揃った、マスター君たちからの報告書も出揃った。ただ、時間神殿攻略のときに観測データが一部吹っ飛んだこともあって、バビロニアのビジュアルデータが他と少し目劣りするんだよなぁ」

「そんなにか?必要数は揃ってると思うけど」

「なんせ私は完璧主義だからね」


どうやらダ・ヴィンチは他の特異点と同じくらい画像データを揃えたいらしいが、必要数は揃っている。会敵したすべての敵性体の画像もあるし、唯斗としてはこれで十分だろうと思っていた。
十分であることはダ・ヴィンチも同意しており、そのうえで、その性格によるところでデータが欲しいのだと分かった。それなら付き合う道理もない、と思ったところで、ダ・ヴィンチは閃いたようにした。


「分かった!君たち、絵で描いてくれたまえ!」

「…はぁ?」

「君たちが描いた視覚情報で補完しようじゃないか。さ、ここにちょうど裏紙がある」


ダ・ヴィンチはもう決めてしまったらしく、立香と唯斗の前に白紙を置いた。恐らくだが、すでにダ・ヴィンチの興味も関心も、特異点の情報ではなく二人の絵心に移っている。
くだらない、と思った唯斗だったが、立香は乗り気だ。


「いいね、なんかそういうの久しぶりだ。自由帳とか昔よく書いてたなぁ」

「自由帳!素敵な響きじゃないか」

「先輩は絵がお得意なんですか?」

「全然?そうだ、マシュも描いてみてよ」


立香も長い付き合いでダ・ヴィンチがもう特異点のためにやっているのではないと理解しているようで、その上で楽しむつもりらしい。やはりそういうところは立香だ。
マシュも少し戸惑いつつ、「視覚記憶情報の再現、挑戦します」と勢い込んでいた。


「…、俺は絵とか描けねぇし…」

「違うよ唯斗君、上手に描けなんて言っていないさ。私は君たちが表現したものを見たいのだよ。分かるかね?」

「やっぱただの興味本位かよ…」


呆れつつも、天下の天才画家が言うのであれば、これも貴重な機会かもしれない、と、唯斗はペンを手に取る。
それにしても、白紙に自由に何かを描く、というのは正直初めてのことで、マシュ同様、戸惑ってしまう。

困っている唯斗に気付いたのか、ダ・ヴィンチは「まず犬から描いてみよう」と言い出した。もう完全にバビロニアのことは忘れている。

とりあえず向かいの席に座る立香とマシュが早速描き始めたため、唯斗もペンの先を紙に触れさせた。
文字を書くことは何も難しくないのに、絵を描く、となった途端に、どうペンを動かせばいいのか分からなかった。

そうしてとりあえず、犬を描いてみた唯斗だったが、できたものを見て愕然とする。


「なんだこれ…キメラ……?」

「俺も唯斗の見たい…ぶふッ、あ、いや、ごめ、笑うつもりは…んっふ…」

「わ、私も同じようなものですので…!」


立香は唯斗の手元を見てすぐに噴き出した。マシュは笑いこそしなかったが、なぜかフォローに入る。
唯斗も二人のものを見てみたが、立香は似たようなもので、マシュは普通にちゃんと可愛い犬だった。キャラクター染みたものなのは、絵本などの影響だろうか。


「立香のだってやべぇだろ。シーサーでも書こうとしたのかよ」

「キメラよりマシです〜。ダ・ヴィンチちゃんはどう思う?」

「うーむ、君たちのリアクションを見て言葉を考えるべきかな、と配慮してしまったよ。この私が!配慮!」


あのダ・ヴィンチに配慮を検討させるほどの出来ということだ。腹が立つことには変わりない。
そこでふと、唯斗はあることを思いつく。


「これ、俺が描いたって言わずにサーヴァントたちに見せたらどうリアクションすんのかな…」

「え、唯斗それ天才の発想では?」

「なかなかエンターテイナーじゃないか。ぜひ私もお供しよう、と言いたいところだがさすがに時間が限られている。後で話だけ聞かせてくれたまえ」



prev next
back
表紙に戻る