長編番外編−絵心と真心2
ということで、まず立香はロビンフッドを呼んで唯斗の姿を宝具で隠させてから、食堂へ向かうことにした。
ロビンフッドは「なんつーことで宝具使わせてんですか」と呆れつつ、正直楽しそうにしていた。当然、この手のことに彼がノらないわけがない。
ロビンフッドに「顔のない王」を借りてマントを頭から被り、姿を消す。ロビンフッドは唯斗のすぐ近くを歩きながら宝具を発動し続ける形だ。
その状態で、立香とマシュも伴って食堂に向かう。
昼時ということもあって、一通りことが済んだら食事にしようということにもなっていた。
食堂に入ると、早速ディルムッドとランサー、アキレウスがいたため、立香はそのテーブルに向かう。
「ちょっといい?」
「お、どうしたマスター」
声をかけた立香にランサーが答える。立香はすぐに、テーブルに唯斗が描いた犬(キメラ)を3人に見えるように置いた。
「これ、何に見える?」
「あ?んだこれ、壁画か?」
早々にランサーがとんでもないことを言いだし、ロビンフッドが軽く噴き出す。唯斗は小さく小突きつつ、自分のサーヴァント二人の反応を窺った。
ディルムッドはしげしげと見てから口を開く。
「キメラでしょうか。この尾は蛇のように見えます」
「俺はスプリガンかと思ったぜ、確かにキメラっぽいな。でけぇ腹じゃなくて頭なんだな、これ」
「にしても、鳥の頭がなくねェか?」
普通に議論となっているが、唯斗はそんな化け物を錬成した覚えはない。
そこに、集まっている立香たちを見て、ガウェインとランスロットもやってきた。
「いかがされました?」
「あ、ガウェインにランスロット。これさ、何に見える?」
立香は早速二人にも尋ねる。ガウェインとランスロットは手元の紙を覗き込んで首をかしげる。
「四足歩行、でしょうか…?獣の類ですね」
「しかしガウェイン卿、前足にあたるものが頭らしきところから直接生えている。この点だけならゲイザーにも見えるが…」
「ゲイザーを描くならそれと分かる目玉の特徴を捉えるでしょう。これを描いた者からは、そのような対象物の特徴を描き出そうとする意志を感じません」
冷静に語るガウェイン。ロビンフッドはヒィヒィ言っており、立香とマシュもバレないように肩を震わせている。
二人の意見を聞いて、ディルムッドが頷いた。
「確かに、描き手の立場になるとおかしい点があるな。体の構造を考えれば足が頭から生えることにはならないだろう」
「なんも考えてなさそうだよな」
同意を示すアキレウス。散々な言い方に、さすがに唯斗も腹が立ってくる。そこで、立香も種明かしに移行した。
「ロビン、お願い」
「はいよ」
ロビンフッドが宝具を解く。それと同時に、唯斗もマントを外してロビンフッドに返した。
途端に姿を現した唯斗を見て、ピシリとガウェインたちの動きが止まる。
「壁画レベルのものしか描けない上に特徴量抽出もせず何も考えず描いていそうなヤツこと俺が描いたものだ、それは」
面白いくらい青ざめたディルムッド、気まずそうにするアキレウス、ゲラゲラ笑うランサー。
そしてガウェインは息を飲んでから、さすがと言うべきか、にっこりと表情を取り繕う。
「大変お上手なキメラの絵です、マスター」
「犬だが?」
「だーっはっはっは!!これが犬とかマジかよ!!」
ランサーは腹を抱えて笑っており、ロビンフッドと立香も笑い転げているが、ディルムッドとガウェイン、ランスロットはあわあわとしていた。この三人はそうだろう。
アキレウスも取り繕うつもりはあるようだ。
「あー、マスター、犬って言われれば全然そう見えるぜ!マジで!」
「も、申し訳ありませんマスター!その、私は武骨なケルトの槍兵ですので、絵心も何もなく、無粋なことを…!」
フォローが下手なアキレウスの横で素直に謝ったディルムッド。やはりディルムッドは許せる。
一方、取り繕おうとしてやらかしたガウェインは焦ったようにしていた。
「申し訳ありません、マスター、その、犬かキメラかで私も迷っていたと言いますか、ええ、犬にももちろん見えていましたとも!」
絶対嘘だろう嘘をつくガウェインの隣で、ランスロットも狼狽えている。ガウェインが下手過ぎる、という追撃もあってのことだろう。
「あの、唯斗殿、私はあまり詳しくありませんが、いわゆるアヴァンギャルド、あるいはピカソの作品にも似た大変趣のあるものかと」
それは逆にピカソに謝った方がいい。
唯斗は呆れてため息をつく。
「…ディルムッドは許す。他はダメだ。特にガウェイン」
「く…っ!こればかりは私の不徳、フォローしきれませんでしたか…!」
この期に及んでまだ言うガウェインはあまりに強かだ。
そこに、別の騎士がやってきた。昼食時ということで唯斗を迎えに来たアーサーである。
「どうかしたのかい?」
その場にいる全員がハッとする。この騎士王はいったいどんなリアクションをするのか。
すかさず立香が紙を手に取ってアーサーに見せた。
「これ、何に見える?」
「…、…?」
アーサーは見せられた紙に描かれたものに、眉を寄せて無言になる。なんと言おうか迷っている顔だ。全員が固唾をのんで見守る中、アーサーはついに答えた。
「…これは、マスターが描いたものかな?」
「え、なんで分かったんだ?」
「この状況から察するのは容易だろう」
「それは確かにな。で?何か分かったか?」
正直、この状況から唯斗が描いたものだと判断するのは確かに簡単だ。
それはしょうがないため、それではいったい何に見えるのか、と問いただす。アーサーはちらりと紙を見てから微笑んだ。
「犬かな?」
「え、マジで。よく分かったな、描いた俺ですらキメラかと思ったのに」
驚く唯斗に、ガウェインは「なぜ…」と呟いているが、自分で思うことと他人に言われるのは別だ。
一方、すばりと言い当てたアーサーはシンプルにすごい。むしろこの絵から犬を連想する方がやばいのでは、と思うほどだ。
「君、大型の犬が好きだろう?それをモフモフとするのが密かに憧れなようだから、首元から頭にかけて注目したのが、先に描き始めたらしい跡から分かる。加えて、尻尾についても犬の揺れているイメージがあるから意識が向いて、それで少し長くなってしまったんだろうね。体のバランスが足の長さと取れていないのは、実物を近くであまり見たことがないから、感覚がつかめなかったんじゃないかな。そういう特徴を考えれば、君から見た犬だろうか、と考えた」
「うわ…引くわ……」
「おや、そこはドキッとしてくれるところじゃないのかい?」
そしてアーサーが語った理由は、まさに唯斗が描きながら考えていたことと同じで、そこまで言い当てたことに少し引いた。それだけ唯斗のことを見ているということであるため、他のサーヴァントたちも少し引いたようにしている。
アーサーは苦笑して唯斗の頭を撫でた。
「まぁいいさ。確かに、上手な絵、ではないのかもしれないけれど、君が描いて君が表現したものだというだけで、とても素敵に見える。うん、上手かどうかじゃなく、すごく素敵だよ」
やはり、そこはさすがアーサー、と言ったところか。
最終的に着地した言葉は、素直に唯斗の心に届いたし、上手だと世辞を言われるよりもずっと嬉しかった。「素敵」だという言葉が咄嗟に出てくるあたり、騎士王たるゆえんだろうか。
「さすがです我が王」と感銘を受けるガウェインとランスロット、やれやれと肩を竦めるアキレウス、ロビンフッド、ランサー、同意して頷くディルムッドと立香、マシュ。
きっと、ダ・ヴィンチが言っていたこともこういう意味だったのだろう。
そこで終わればいい話だったのだが、その後、面白がったランサーがアーサーにも犬を描かせ、唯斗よりもひどい、キメラどころではない化け物を描き、「見たら呪われる」と言われる呪いの絵としてカルデアを震撼させることになったのだった。