長編番外編−微睡み
「戦いの在り方」後
添い寝から目覚めた主とアキレウス
ふと目が覚めると、太く逞しい腕の上に頭が乗っていて、目の前には分厚い胸板があった。
何かと思って顔を上げると、精悍な顔にかかる緑色の前髪が揺れているのが見える。
そういえば、魔力供給のために一緒に寝ていたのだと思い出す。
距離が近ければ十分なところ、あまりにもアキレウスがつらそうだったこともあり、体を触れさせる形、要は添い寝の形になったのだ。
唯斗が起きたことに気付いたのか、アキレウスもゆっくりと目を覚ます。
「…ん、おはよーさん、マスター」
「……おはよ、調子は…?」
「すっかり元通りだな。つか、マスターのが調子悪そうだぞ?」
「…寝起き、あんまよくねぇから……」
唯斗はいまだに寝るのが下手くそであるため、寝入りも寝起きも悪い。これでも改善した方で、特に寝るときは、アーサーなど安心できる相手のそばであればすぐに寝られるようになった。
今回もアキレウスの腕の中だったためすぐ寝られたが、一方で起きるのはどうしても苦手だ。
それでもアキレウスの調子を確認できただけ、今朝は頑張った方である。
「かわいいな、マスターは。もうちょい寝るか?」
「…かわいくねぇ……寝ない…おきる……」
「はは、了解。体起こせるか?」
「……起こしてくんね」
頭がぼやける中で、本当はこのまま寝てしまいたかったが、特異点の報告書もあるため起きていたい。エミヤにも怒られてしまう。
そのため起こすようアキレウスに頼むと、またアキレウスは小さく笑ってから、唯斗の頭を乗せた腕で唯斗を支えつつ、腹筋の力だけで起き上がった。唯斗の体重もあるのに、軽々と上体を唯斗ともども起こす。
急に体が起き上がったため、くらりとして唯斗はアキレウスの上体に凭れる。ベッドの上で片膝を立てているアキレウスの胸元に頭を預けていると、後頭部を撫でられた。
「わり、急すぎたな」
「んー……」
撫でる手は相変わらずガサツだったが、おかげでそのまま寝てしまうということにもならなさそうだ。
少しそうしていると、医務室の扉が開く音がする。入ってきた気配は、最も慣れたものだった。
「お、騎士王か」
「……話は聞いていたけれど。少し距離が近すぎじゃないかな」
「…アーサー……」
なんとか顔を上げると、アーサーがベッドの脇に立ってこちらを見降ろしている。
唯斗と目が合うと、ふっと破顔して、防具のない素手で唯斗の頬を撫でた。
「おはようマスター。昨日は少し無理をしたと聞いている」
「あぁ、ちょいとマスターには負担かけちまってな」
「そのマスターを抱き枕にしたわけだね」
ピリッとするアーサーに、唯斗は頬の手に自分の手を添えてこちらに意識を向けさせる。
「…結構、呪いが残ってたから…ゼロ距離で一晩過ごす、ってのも、最低限の手段だったんだ。本来なら、もっとその…あからさまな魔力供給が必要なくらい。アキレウスはこれで我慢してくれたんだ」
「……そうか。いや、僕も大人げなかったね。いちいち目くじらを立てていたら、もしものときに君が生き残るための決断を鈍らせてしまうかもしれない。君が魔術の側面で必要だと感じたのなら、僕も何も言わないよ」
アーサーは優しくそう言うと、もう片方の手で唯斗の頭を撫でる。今度こそ、眠気を誘う優しい手つきだ。アキレウスに体を支えられ、アーサーに頭を撫でられるなど、まったく大英雄相手に何をしているのだろう、と思わないでもないが、この心地の良い朝は、存外悪いものではなかった。