長編番外編−説教(調教)


新宿後のどこか
説教する主とディルムッド、アキレウス


『マスター君二人〜、ちょっと私の工房に来たまえ〜』


自室で本を読んでいたところ、アナウンスでダ・ヴィンチに呼び出され、唯斗はとりあえず自室から管制室に向かった。
管制室の前で同じく呼ばれた立香とばったり出くわす。


「あ、唯斗」

「立香、何の要件か思い当たるものあるか?」

「全然。なんだろ」


二人で首をかしげながら管制室に入り、前方のダ・ヴィンチ工房へと向かう。こちらを見たムニエルがニヤリとした。


「今度は何したんだ藤丸〜」

「ちょ、なにもしてないですけど!」


たまにやらかして呼び出しを食らう立香は、「今回は」思い当たるものがない、ということだろう。

そうして部屋に工房に入ると、雑多な部屋の中、仁王立ちになるダ・ヴィンチと、その前で正座させられる5人の英霊がいた。

左から順に、若い方の李書文、ベオウルフ、ランサー、アキレウス、そしてディルムッドだ。正座をさせられた様子に、唯斗も立香もある程度理解した。


「…ダ・ヴィンチちゃん、ひょっとして、またシミュレーター壊れた?」

「そうとも!この5人が暴れたアメリカの再現ストレージの6割が吹っ飛んだよ。宝具を含む過剰な戦闘演算の負荷に耐えきれずデータ破損さ。この部分はゼロから構築し直しだ」


やはり二人の予想通り、シミュレーター内部で暴れすぎてデータが飛んだらしい。
しかもこれは3度目だ。過去2度は、グランドオーダー中に起きており、それも第六特異点後のことだったため、バビロニア特定に向けて不眠不休の労働をしていたダ・ヴィンチもさすがにキレていた。

だが今回はそれを経ての3度目。過去2回はキレつつ寛大な態度をしたダ・ヴィンチも、もう3度目は堪忍袋の緒が切れたようだ。


「あの程度で壊れる機械にも問題があろう」

「ほんとだぜ、ちゃんとしろよな」


李書文とベオウルフは開き直っていたが、立香がため息をつくとさすがに黙る。立香は普段極めて温厚で優しい分、こういう「失望した」というような態度を取られると効果はてきめんだろう。


「…とまぁ、大英雄(クソガキ)たちに私が怒ったところで効果はないからね。こうしてマスター君たちを呼び出したというわけさ」


確かに、マスターたちが来たからか、5人ともかなりばつの悪そうな顔をしている。特にディルムッドは唯斗の登場で完全に顔を蒼白にさせていた。もうすでにディルムッドは許してやってもいいのでは、という気になるが、すぐに察知したダ・ヴィンチがこちらをじろりと見た。


「きっちりお説教頼むよマスター君たち、何せマスターなんだから」

「え〜、俺そういうの苦手だし…唯斗は?」

「得意なわけねぇだろ…まぁでも、言うべきことは言わないとな」


唯斗とてお説教などする立場ではないと思っているが、けじめはつけなければ、というのはダ・ヴィンチに賛成だ。
唯斗はディルムッドの正面に立つ。


「…ディルムッド」

「は、はい」


俯いて震える姿に、許したくなる気持ちがわき上がるが、ぐっと堪える。


「…お前なら、きちんと良心を機能させて程度の調整ができると思ったんだけどな」


本当は、「期待してたんだけどな」と言いたいところだったが、それを言うとディルムッドは本気で傷ついてしまうラインのため、そこまで言わずにおく。だが、この言葉も同じようなニュアンスを持っている。ディルムッドはバッと顔を上げて、ぷるぷると震えだした。


「も、申し訳、ありません、我が主よ、私はなんと愚かなことを…なんという不届き者でしょう、主に斯様な醜態をさらしお手を煩わせるなど…万死…これは万死に値する行為…!このディルムッド、自らを槍で貫き1日耐えることで以て許しを願います…ッ!!」


なんと、ディルムッドはおもむろに立ち上がり、黄色い槍ゲイ・ボウを出現させる。この槍による怪我は、その時空において一生治ることがない呪いを付与するものだ。


「バッカお前何やってんだ!」

「止めないでくださいマスター!私のような不忠者にはこれくらいせねばなりません!!」

「あーもう、令呪を以て命ずる!動くなディルムッド!!」


仕方なく、唯斗は右手の令呪を1画使用してディルムッドを止めた。ディルムッドの意志を制限するタイプの使い方のため、通常の聖杯戦争と比べて効力は弱い。英霊の同意が必要なカルデア式召喚の特徴だ。
ただ、ディルムッドの動きを止めて冷静にさせることには一役買ったようで、ディルムッドは動きを止めて呆然とこちらを見下ろす。


「…さてディルムッド、敵もいないのに俺を前に武器を持つのか?」

「…はっ、も、申し訳ありません」


ディルムッドは慌てて槍を消失させる。


「あと頭が高い」

「はっ、」


そして即座に跪いた。いつもの騎士のポーズになったディルムッドに、唯斗は一画消えた令呪の浮かぶ右手を出して、その頬を撫でる。


「俺は、これは立香もだけど、サーヴァントたちには自由にしてて欲しいと思うし、なるべく楽しい時間を過ごして欲しいとも思ってる。だからあまり行動を制限したくはないんだ。でもこんなダサいことにもなって欲しくない。分かるな?」

「は、はい、もちろんです」

「ならさ、ちゃんと格好いいところ見せてくれよ。お前は俺の槍兵(ランサー)であり俺の騎士だろ?ディルムッド」

「…ええ、その通りです、我が主よ…ああ、マスター……」


すり、と唯斗の右手に手を寄せて頬をすり寄せるディルムッド。
それを見ていたダ・ヴィンチはヒュウと口笛を吹いた。


「完全に不健全な方の調教師(マスター)じゃないかあれ。君らも気をつけないと、彼に調教されるよ?なぁ立香君」

「うん、マジで油断すると秒で落ちるから気をつけた方がいいよ。しかも落ちても報われないからね、運命で結ばれてるタイプの相手が騎士王だし。ランサーはちょっと危ないけど」

「キャスターの俺から話は聞いてっからな、気をつけるわ。でも隣のイリアスの英雄様はもうアウトっぽいぜ」


どんな会話だ、と思って聞いていたが、ランサーの隣のアキレウスに視線をやると、なぜかとんでもなく羨ましそうにディルムッドを見ていた。


「…お前もな、俺の騎兵(ライダー)

「っ!ああ、我がマスター!」


アキレウスにも声をかけると、アキレウスはパッと喜色を顔に浮かべて唯斗の左手を取り、跪いてキスを一つ落とした。大英雄二人になんてことをさせているんだ、と正直思わずにはいられないが、この様子なら同じ過ちは繰り返さないはずである。

ちなみにその後、罰は罰として設けることになり、5人ともマスターたちの部屋掃除をさせられることになった。ただ、唯斗のサーヴァント二人は唯斗に何をしでかすか分からないということで、サーヴァントを入れ替えるように唯斗の部屋には立香の、立香の部屋には唯斗のサーヴァントが宛がわれた。
その際、唯斗の部屋に来たランサーがうっかり唯斗をベッドに事故で押し倒してしまい、「事故ならしょうがねーよなー」とそのまま手を出そうとしたところ、霊体化して監視していたエミヤが叩き出し、アーサーが雪山から放り出してエクスカリバーなみの魔力放出による斬撃を放った。
立香は「クー・フーリンが死んだ!この人でなし!」と一応言ったが、満足したように「一度言ってみたかったんだよね」と付け足し、この件は無事に済んだのだった。



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