刑部姫のコピー本−クッキング・アーチャー
サバフェス3周目
エミヤ×主
「人理修復が終わったんだ、君も自炊のひとつでもできるようになっておいた方がいい」とは、カルデアの食堂の主にして唯斗の恋人でもあるエミヤの言葉だ。
過去のことや日本での暮らしを知っているエミヤは、とにかくカルデアから帰国したあとの唯斗の生活を心配してくれている。
そのため、今日もエミヤによる料理教室の時間となっていた。
と言っても、すでに夕食も終えた夜の時間。これから作るものは自分が食べるものではなく、いくらでも食べるアルトリアの腹に収まる予定のものだ。
「変なものを食べさせるわけにはいかないという気になるだろう」というエミヤの謎の計らいだったが、確かに唯斗の集中力も違う。自分のためのことであれば、もしかしたら適当でもいいだろうと思っていたかもしれないが、アルトリアが食べるとなれば粗相をするわけにはいかない。
「…マスター、ピーラーをそんな持ち方をしては怪我をする」
熱意はあるのだが、やはり初心者には分からないことだらけだ。
ジャガイモの皮をピーラーで剥いていると、エミヤが見かねて口を挟んだ。確かに、勢いをつけてしまうと手首を切ってしまいそうな体勢になっている。
だがどうやって力を入れつつ安全な持ち方をするのか、と動きが止まると、エミヤは唯斗の後ろに移動した。
そして、後ろから唯斗の手を取って、ジャガイモとピーラーそれぞれを唯斗の手の上から掴む。
エミヤの節くれだった分厚い手に包まれ、さらに後ろから抱き締められるように腕に囲われている状態だ。
17センチにもなる身長差、背中には逞しい胸筋が当たり、唯斗の腕が2本は入るのではという太い腕が、ノースリーブのため惜しみなく晒されている。
赤い霊衣を纏っていないときは髪も下ろしているため、エミヤはいつもより幼く見えるが、こうして触れる体はやはり大人の男のそれだ。
顔に熱が集中するのを感じるが、いろいろ説明してくれているエミヤの言葉も聞かねばならない。
しかし、唯斗の手を包んで実演するエミヤに、なかなか耳が言うことを聞いてくれなかった。
「む、聞いているかねマスター」
唯斗の反応が薄いことに目敏く気づいたエミヤは、たしなめるように顔をこちらに寄せて、唯斗の顔を覗き込んでくる。
まずいと思ったときには、エミヤの驚いた目とかち合った。唯斗の顔が赤いことは、もう彼には気づかれてしまっているだろう。
「…、あー……」
「…なんだよ、笑いたきゃ笑え」
気まずそうに顔を逸らしたエミヤに、唯斗はむっとして開き直る。そもそもこれは、無遠慮に触れてくる鈍感天然主人公ムーヴをするエミヤが悪いのであって、唯斗のせいではないはずだ。
それに対して、エミヤは「いや」とはっきり否定の言葉を口にする。
「その、なんだ。からかっているわけではないんだ。ただ、その…」
「はっきりしろよ」
「…、いいんだな?」
煮え切らないエミヤに、迷ってないで早く言えと促すと、エミヤは意外にもじっと唯斗を見下ろした。こちらの覚悟を問うようなものに、唯斗は戸惑う。
だがここまで来れば吐かせなければ、と唯斗は頷いた。
エミヤはそれを確認すると、迷っていたような表情から一転、ニヤリとする。
「これくらいの接触で生娘のようなウブな反応をされてしまうと、さすがの俺でも苛めたくなってしまう。もっと厭らしい触れ方をしたらどんな反応をするのか知っているからね。あとでたくさん、君の恥ずかしがるところを触れてやろう」
「な…ッ!」
唐突に、まるで情事の際のような色香を帯びた声で囁かれて、唯斗は一気に顔が茹だるように熱くなるのを感じた。
エミヤは言いあぐねていたのではない、自重していたのだ。唯斗をもっと苛めたくなるのを自制していた。
この男の普段の皮肉屋ぶりが、情事の際にはSっ気となって発露することを十分に知っている唯斗は、こんな言葉だけで震えてしまう。
そうした唯斗の反応に気をよくしたエミヤは、からっと切り替えてジャガイモを唯斗から奪い取る。
「とっとと料理を済ませてしまおう、早く食べなければならない食べ頃のものがあるからね」と手早く料理を進めるエミヤに、なんのための時間だと呆れつつも、それを止めずにいる唯斗もまた、同じくらいしょうもなかった。