刑部姫のコピー本−カルデア捕囚


サバフェス6周目
ギルガメッシュ×主


ふと目が覚めると、そこは天蓋付きのベッドだった。
キングサイズのベッドは広く、クッションもシーツも上等だ。さらに、天蓋を支える支柱も、ベッドの台座も、すべて黄金と大理石でできており、象牙とアラバスターで装飾が施され、ところどころにラピスラズリやターコイズが埋め込まれていた。

さらに、天蓋から下がるカーテンを開けると、そこには無数の金銀財宝の山が延々と広がっていた。
黄金の冠、宝石の数々、金のメダルに象牙の彫刻、そして数え切れないほどの美しい装飾の剣や槍が山となってどこまでも続く。


「……なんだ……これ……」

「目覚めたか」


そこにかけられた低い声。カーテンから出て立ち上がると、ベッドの傍に金髪の男が立っていた。
キャスターのギルガメッシュであり、つい先日までウルクで唯斗が秘書のように仕えていた相手だ。


「ギルガメッシュ、ここは…」

「もう理解しておろう?聡い貴様なら」

「っ、なんでこんな、」


驚愕するのも無理はないだろう。なぜならここは、バビロンの宝物庫。アーチャー含め、ギルガメッシュの宝具を含む世界中の宝が格納された異次元空間だ。

なぜ自分がこんなところにいるのか、それは、ギルガメッシュが自らの意志で唯斗をここに格納してしまったからに他ならない。


「時間神殿が攻略された今、貴様がカルデアに留まる必要もあるまい。ならば、我が小間使いの処遇を我が決めることに不自然なことなどなかろうよ」

「そんな…っ、いきなり消えたらカルデアのみんなは、サーヴァントだって…」

「あぁ…確かにスタッフたちは大混乱していたな。立香もマシュも、当然凡英霊どももな。今頃、マーリンが状況を説明しているだろうよ。ヤツとてこの宝物庫の中までは見られんが、察しはついているはず。我の霊基はすでに退去している」


当然のようにカルデアの混乱を語るギルガメッシュ。まさかこの王がこんなことをするとは思っていなかったため、唯斗は愕然とした。


「…なんで…俺に、そこまでの価値なんて…」

「確かに、この宝物庫にある宝は普遍的かつ恒久的な価値を持つものだ。貴様の価値は普遍的ではないが、しかしこの我が認めたのだ。そして同時に、人理修復が成された今、貴様の価値は目減りしていく…それは、魔術協会なる組織や世界そのものに、貴様が消費されるからだ。貴様は我のモノだ。たとえ世界とて価値を毀損することは許さぬ。故に、ここに貴様を閉じ込めた」


つまりギルガメッシュは、気に入った存在である唯斗が、人理修復後に搾取されることを防ぐため、唯斗をここに連れ込んだということか。
他に方法はあるのでは、と思うが、未来視ができるギルガメッシュがこれを選んだということは、他に手段がなかったのかもしれない。

しかし、それでもなお解せない。たとえ価値をこの男に認められ、守るためにここへ連れてこられたのだとしても、唯斗を含めカルデアは未来を覆すために戦ったし、現にバビロニアはそうして救われた。


「…あんたが視た未来で、ウルクの滅亡は避けられなかった。でも、俺たちが一緒に戦って、ビーストは倒されてメソポタミア文明は存続した。それを一番理解してるのはあんたのはずなのに、なんでそんな、諦めるようなこと…あんたらしくねぇだろ」


そう、まるで諦めて未来に屈したかのような振る舞いだ。それを指摘すると、ギルガメッシュは一瞬だけ真顔になる。感情のないそれに唯斗が肩を震わせると、ギルガメッシュはニヤリと笑う。


「フッ、そこまでは気づくか。当然よなぁ?我が小間使いよ。であれば話は簡単だ。あぁ、簡単だとも。『我がそうしたかった』、ただそれだけ。世界に搾取されることなどどうでもよい、ただのこじつけだ。そも、貴様はそれに屈する玉ではない。貴様は我の手元に置かれ、愛でられ、ここで永遠に我が愛を受け続けるのだ。感激に噎び泣くことを許すぞ?」


そう言うなり、ギルガメッシュはベッドに唯斗を押し倒した。天蓋の下で、ギルガメッシュの神につくられた美しい顔が歪む。その手が服の下をまさぐり始め、唯斗は思わず、ギルガメッシュの肩を掴んだ。


「っ、あんた、ここまですんなら、ずっと俺のこと手元に置いてくれんだよな」

「む?」

「…っ、飽きて捨てられるくらいなら、俺、ここにある剣で自分の首切るからな」


涙目になっている自覚はある。どうせ外の世界でやりたいことがあったわけでもない、ギルガメッシュに閉じ込められることはもう良かった。だが、飽きられて捨てられたら、という恐怖をずっと抱えたまま、この光景を何度見るのだろうと考えたら、急に怖くなったのだ。
ギルガメッシュは唯斗の心情に気づいたのか、少し意外そうにする。

そして、手を引っこ抜くと、おもむろにベッドに横になり、唯斗を抱き込んだ。ギルガメッシュの腕の中に抱き込まれて、唯斗は目を白黒させる。


「え、なに、」

「案ずるな。飽きが来るような鮮烈な出会いや物語があったわけではない。ただ、ゆっくりと、貴様との時間の積み重ねの上に今があるのは確かだ。であれば、飽きることはない。呼吸を飽きることがないのと同じようにな」

「…その言葉、忘れるなよ。もう、一人にされんのは、嫌だ……」

「…あぁ」


頭を撫でられ、唯斗はようやく安堵して、ギルガメッシュの首筋にすり寄った。

これはひとつの終末の形。いびつな過去を持った少年に、いびつな愛を抱いた王が選んだ、一つの物語の終着点だった。



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