刑部姫のコピー本−共依存メランコリー


サバフェス10周目
ガウェイン×主


回数を重ねるごとに激化していく特異点の戦い。それに比例して増していく、「自分がいなくても本来なんとかなるはずだった」という自己否定感。
第六特異点のガウェインとの戦いでそれはピークに達して、自分が身代わりに犠牲となっても大丈夫であるという事実を、自分で自分に突きつけてしまった。
かろうじて帰還できたものの、いまだに唯斗の中には、本来自分は不要であるという事実が渦巻いている。

いつ要らないものだと言われてしまうか分からないという勝手な恐怖感を抱きながら戦うには厳しい状況の中で、ガウェインは唯斗にこう言った。

「あなたがあなたであるために、人前ではすべてのリソースを費やせばよろしい。それ以外の部分は、すべて私が請け負います」という言葉通り、ガウェインは、誰かと一緒にいない時のほとんどを、唯斗の世話に費やした。

唯斗はいつも通りの自分を貫くために、人前では頑張って振る舞った。
そして部屋に帰ると、途端にガウェインにすべてを預けて無気力になってしまう。食事も入浴も着替えも、すべてガウェインがやってくれているのだ。なんとか排泄だけが自ら行っていることである。

それ以外のすべてをガウェインに任せる代わり、部屋の外では完璧に今までの自分として振る舞うことができる。

逆に言えば、ガウェインがいなければ、もはや唯斗は自分を保てなかった。それはたまに、漠然とした恐怖感として湧き上がる。


「ガウェイン、ガウェイン…!」

「はい唯斗、私はここにいますよ」


自室の中、ガウェインの名を呼べば、すぐに整理をしていたらしいクローゼットから出てきて、あやすように唯斗を抱き締める。
その分厚い体に抱きつけば、ガウェインはマントごと唯斗を包むように抱き込んでくれた。


「怖い、怖いんだガウェイン、俺、いつも通りやれてるか?ちゃんと、カルデアの、人理の、立香のためになれてる?本当はみんな、ガウェインやオジマンディアスみたいな優秀なサーヴァントが立香の元だったら、とか、俺がいない方が立香も自由にやれるとか、思ってねぇかな」

「そんなこと誰も思っていませんよ。あなたは素晴らしいマスターです」

「でも、今日だって、アキレウスもアーラシュもエミヤも、立香と楽しそうに話してた。俺だったら、俺みたいなマスターより立香みたいな優しくて明るいヤツの方がマスターとしていいなって思うし、俺は立香みたいに楽しい話題とかできるわけじゃねぇし、立香やマシュみたいに無条件に愛されるような存在じゃねぇし」

「誰もが無条件に愛される資格があるのです。これまであなたの周りにそのような愛を与える人間がいなかったとしても、今は違うでしょう?」

「…、ガウェインがいるから…?」

「はい、正解です。ちゃんとそこに至れて素晴らしいです。そう、私はあなたを愛しています。たとえどれだけ他の者があなたを否定しようとも、私はあなたを肯定し続ける。なぜならもう、私もあなたなしでは生きていけないからです。私はあなたなしに現界していられません。誰にも頼れないあなたが、私にだけ心を開いて縋ってくださることの、なんと素晴らしいことか。それを知らない頃にはもう戻れないのです。あなたがいない世界では、もう私はサーヴァントとしての自我を保てないでしょう」


唯斗はガウェインの麻薬のような言葉が脳を痺れさせていくのを感じた。ガウェインは必要としてくれる、こんな自分でも愛してくれる。それならば大丈夫だ。また、いつも通り外でも振る舞える。誰も自分を信じていないのでは、という疑心もなかったことにできる。ガウェインだけ信じていればいいのだから。
世界から唯斗を隠すように抱き締めてくれるガウェインの腕の中は、今や世界で最も安心する場所だ。


「ガウェイン、好きだ、ガウェイン…」

「ええ、私もですよ。唯斗。私のあなた」


白々しく煌々と照らす照明の下で、その明かりを持ってしても照らせないような、そんなほの暗い関係性。
マスターを好きになったばかりか、マスターを自分に依存させることで手元に置き、いつしか自分に依存するマスターに依存するようになっていた男。それを知りながら、外の世界の誰もが、真実自分を信じてくれていることを理解していながら、この共依存そのものに依存している少年。
救いのない関係なのか、救いがいらない関係なのか、それは誰にも分からない。



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