刑部姫のコピー本−狂犬注意!
サバフェス12周目
森長可×主
バーサーカーは基本的に会話が困難であることが多い、というのは、立香のサーヴァントを見て知っていた。今まで自分のバーサーカーを契約したことがなかった唯斗でも、ダレイオスやスパルタクス、アステリオスなどコミュニケーション難易度の高い者たちを多くみてきた。
中には、会話は成立するものの一歩間違えばまずいことになる清姫、頼光、ナイチンゲールなどもいる。
まともかつ知的な会話が成立するバーサーカーとしてはベオウルフなどがいるが、あれは例外だ。
そんな中で唯斗の初めてのバーサーカーとしてカルデアにやってきた長可は、大名経験者だけあって、会話は普通に成立するし、書も茶も嗜む文化人ぶりも見せつける。
もちろん、すぐに戦おうとしたり喧嘩を売ったり首を取ろうとしたりするものの、唯斗の言うことはきちんと聞いてくれる。
ただ、最近は、バーサーカーとしての性質かは分からないものの、やたら唯斗にべったりとなっていることが気になってきた。
「おう唯斗、勝蔵の散歩か?」
「いやマジの犬みたく言うな」
「おう大殿!散歩じゃねぇが殿様に近寄る虫を蹴散らしてはいるぜ!」
「番犬業か、まぁそやつ魔性の男じゃし、妥当じゃろ」
廊下ですれ違った信長にもこの調子だ。長可は、唯斗のすぐ後ろを歩くか、あるいは腰を抱いていたり後ろから肩を抱いてきていたり、どこか触れながら一緒に歩くことも多かった。
すっかり慣れてしまったが、長可はこの位置をキープすることで、近寄るサーヴァント、特に男を威嚇している。長可曰く「下心センサー」が反応する相手には睨み付けているそうだ。
ちなみに、立香には「森君の下心センサーめっちゃ的確だね」と言われていた。つまり、これまで長可が威嚇していたロビンやランスロットもそう、ということだろうか。
恐らくそれは藪蛇のため何も言わないでいるが、とにかく、長可は常に唯斗に近づく者を牽制している。
度を過ぎれば唯斗が注意するが、逐一言うのは諦めていたところ、これでは英霊はさておきスタッフが唯斗に話しかけられなくなると問題視されてしまい、現在、唯斗と長可は管制室に呼び出されていた。
「さて、ここまで来てもらったのは他でもない。その後ろにひっついている番犬こと狂犬君が誰彼構わず威嚇するせいで、スタッフが業務連絡すら怯えてできないということだ」
「あ?腰抜けかよ」
「長可はちょっと静かにしててくれ」
「おう!」
唯斗が言えば躊躇無く応じるのだが、やはりバーサーカーである以上、自分の意志で自制するということは難しそうだ。
ダ・ヴィンチも改めてそれを理解したようで、やれやれとため息をつく。
「というかそもそも、唯斗君は嫌じゃないのかい?いちいち交友関係をすべて見張られているようなものだろう」
「別に…嫌だとか不快に思ったことはない」
ダ・ヴィンチは唯斗の回答を聞くと、さらに呆れたようにした。いったい何を考えているのだろう、と思っていると、ダ・ヴィンチは後ろの長可に目を向けた。
「森長可君、いちいちそうやって警戒しなくてもいい方法があるんだけど」
「なんだよ」
「マスター君と恋人になって、その関係を喧伝すればいい。そうすれば、唯斗君に言い寄ろうとする者はいなくなる。あの狂犬が恋人だと思いとどまるからね」
「っ!天才かお前!よっしゃ殿様!付き合おうぜ!!」
「………は?」
とんでもないダ・ヴィンチの誘導に、管制室のスタッフたちが一斉に動揺したように肩を揺らした。いったい何を言っているんだこの天才は、と誰もが思っていることだろう。
「だってここまでされて不快じゃないとか、君も大概、この大型わんこ君に絆されてしまっているんだろう?You付き合っちゃえよ」
「おま、なに言って、」
「いいじゃねーか殿様!前々から抱きてぇって思ってたしよ。大事にするぜ?俺があんたを必ず守る。恋人たるあんたのために、俺も生きて帰ってくる。な?」
長可は唐突に真剣な表情になって、唯斗の正面に回って手を握る。その真摯な言葉に、唯斗は急速に熱が顔に上がっていくのを感じた。
今まで長可に牽制されていても嫌じゃなかったのは、こういうことだったのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、時間が、」
「俺の待てはそんな長く聞かねぇからな。早く踏ん切りつけねぇと先に食っちまうからな、唯斗様?」
「っ、名前呼ぶなら様つけんな」
「…はっ、了解」
長可は唯斗の返しに驚いたようにしたあと、ニッと笑っておもむろに唯斗を抱き締めた。20センチ以上の開きがあると、目線の位置に鎖骨がくるほどで、逞しい胸筋に顔を押しつけられる形となる。
それにひどく安堵しているあたり、この問題が解決するのは、すぐ近い将来のことのようだった。