自由の風に吹かれて−3


そうして夏の予定が立てられたところで、立香がニヤニヤとしながら向かいからこちらを見つめてくる。


「…なんすか」

「いやぁ〜?せっかくの保養地でのバカンスなんだし、これを機に唯斗と関係を近づけたりしないのかなぁって」

「な…っ、」


聞かなきゃよかったと思ったマンドリカルドだが、聞かずとも立香は自分から言ってきただろう。

そう、マンドリカルドはルームメイトである唯斗のことを、いつしか好きになっていた。それを立香たちに言ったことはなかったものの、公然の秘密というやつで、とっくにバレていることはマンドリカルドとて知っていた。

マシュは顔を輝かせ、オフェリアも楽し気にする。


「確かに、これはとても良い機会なのではないでしょうか!」

「そうね、夏はロマンスの季節でもあるものね。協力は惜しまないわよ」

「それ自分たちが楽しみたいだけっすよね…」

「当然!」「当然でしょう?」


立香とオフェリアは声を揃える。マシュは純粋に応援するつもりのようだったため、二人を驚いたように見る。


「そんな、マンドリカルドさんは本気なんですよ…!?」

「分かってるよマシュ、ただ、協力する見返りに人のロマンスをニヤニヤしながら見させて欲しいなってだけ」

「ええ、マシュ、あなたも素敵な恋愛小説を読んだら自然と頬が緩んでしまうでしょう?そういうことよ」

「なるほど…」


マシュは良くも悪くも純粋過ぎて、マンドリカルドはたまに心配になる。簡単に立香とオフェリアに言いくるめられたマシュに、マンドリカルドはサンドイッチの紙屑を丸めながらため息をつく。


「っていうか、マジでナチュラルに話してますけど、俺も唯斗も男っすよ…?ドイツは良くてもイタリアも日本もそんな寛容じゃないっつーか」

「あら、不寛容でもないわ。確かに、両国とも同性婚は合法化されていないけれど」

「そうだね、日本も前ほど不寛容じゃない気がするな。東京とかは特に。こっちで結婚すれば、一応結婚相手として認められるしね」


マンドリカルドはこれまで同性を好きになったことはなかったし、唯斗以外の男を好きになる余地は正直ない。見ていると恐らく唯斗もそうなのだろう。とはいえ、ドイツ、特にベルリンのような都市部は非常に自由で、同姓どうしで手を繋いでいる姿もざらに見かける。
ロンドンやブリュッセル、ロッテルダムなどは特にそうだ。

一方、イタリアは同性婚を採用しておらず、パートナーシップに留めているが、日本にはそれすらないという。イタリアだって、先進的な北部はまだしも保守的な南部ともなると否定的だ。


「…そうは言っても、俺なんかが唯斗の未来に制約かけるわけには……」


ついいつもの癖で視線を下げると、立香がいつもよりもさらにはっきりと、少し強めの語気で名前を呼んだ。


「マンドリカルド」

「っ、」

「それは唯斗が決めて覚悟することだよ。そんで、そういうのは、二人で乗り越えるものだよ」

「そうですよマンドリカルドさん、そしてそのために私たちがいます」

「ベルリンは自由の街よ。鉄のカーテンに隔たれた最も不自由な街だったからこそ、それを乗り越えて今がある」


それこそこの大学の名前が象徴する通りだ。この街に吹く自由の風が、少しだけ、マンドリカルドの背中を押してくれた気がした。
何よりも、こんな感情を抱えているマンドリカルドのことを受け入れて応援までしてくれる友人たちがいる。


「ってことで早速作戦会議しなきゃ!マンドリカルドと唯斗の距離感を、ただの友人でありルームメイトであるっていう関係からもっと近づける方法について!」

「立香?」


と思ったのも束の間、早速ウキウキとし始めた立香に呆れる。さらに、オフェリアも呆れたようにした。


「まずは期末を乗り越えるところからでしょう」

「うっ」


バカンスの前にまずはそこからだ。期末が終わり1年生が終われば、夏がやってくる。



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