長編番外編−マスターゲーム


サバフェス後
英霊の飲み会で王様ゲーム



サバフェスも終わり、カルデアに帰還してから打ち上げと称した飲み会が開かれた。最終日はそれぞれ遊ぶことに精を出したため、サバフェス自体のお疲れ様会とやらをやる、という名目らしい。そもそもサバフェスに関係ないサーヴァントたちも多く参加していることから、もはや誰もサバフェスの話などしていなかった。
立香とマシュは早々に離脱して自室に戻っているが、唯斗は半端に酒が飲めることもあって英霊たちに捕まっている。

今回は女性陣も席を共にしているため下ネタは控えめだが、一方でノリは若干合コンのような感じになりつつあった。
食堂でテーブルを囲んで30人ほどのグループになっている。

そんな中、酒がなくとも頭のネジが緩んでいるアストルフォが、とんでもないことを提案してきた。


「ねぇねぇ、王様ゲームやろうよ!!」

「あ?なんだそれ」


アストルフォの提案に、近くにいたランサーが首をかしげる。それに対して、アマデウスが補足する。ろくにアストルフォが説明できないと理解しているからだ。


「マスターの母国で行われるパーティーゲームのようだよ。くじ引きで一人だけ当たりを引けるようになっていて、当たりを引くと王様役になる。王様はくじの番号を使って命令をする、というゲームさ。たとえば、4番と5番でキス、みたいなね」

「うへぇ、地獄だな」


ランサーはそのゲームによって現出されるであろう酒の席の地獄を想像して舌を出す。一方、なぜか参加しているアーチャーのギルガメッシュはフンと鼻を鳴らした。


「くだらん、くじなど引かずとも我だけが至高の王だろう」

「たわけ、若い方の我がそうなら我もそうだろう。すでに王が二人ダブっておるではないか」


キャスターのギルガメッシュは変な指摘をするが、一方で確かに、この場にはリアル王様が数多くいる。このままでは真の王様決定戦という名の戦闘が始まってしまう。
そこに、メイヴが乗った。


「楽しそうでいいじゃない!まぁ、王様ってのはやっぱ波が立つし、ここは『マスターゲーム』でどう?王様として命令するんじゃなくて、令呪で命令するの」

「うっわメイヴちゃん天才!さっすがぁ!男を漁れるゲームへの嗅覚高いね!」

「それは悪口かしら?」


天然のアストルフォにメイヴは青筋を立てるが、頭が湧いている相手に怒ることはしないようで、そのまま受け流した。
そしてメイヴの提案はそれなりに魅力的に映ったらしく、この場の英霊たちはそれなりに乗り気になってしまった。いや、分かっていなさそうなインド組や明らかに乗り気ではないジークフリートなど様々だが、逃げられないだろう。


「……じゃ、俺は本物のマスターだから控えておくわ」

「させるわけないでしょ〜?」


すっと唯斗はその場から消えようとしたが、目敏くメイヴに捕まって連れ戻される。
さらに、タブレット片手に刑部姫も積極的に唯斗を椅子に押し込んだ。このコミュ障、なぜかネタのためならこんな場にもやってくるのである。
同様にジャンヌ・オルタもニヤニヤとしながら唯斗が逃げられないよう圧をかける。


「あんたは良いネタになるからね、逃げんじゃないわよ」

「来年のネタしくよろ!」

「くっそ……」


どうやら今日は運が悪い日だった。だが、立香がいればもっと地獄になっていたであろうことから、とりあえず最悪のケースは回避できただろう。
それに、ご禁制警察の頼光や小陸軍省ナイチンゲールもカルデアを徘徊しているため、あまり突拍子もないことにはならないはず。


「じゃあ早速くじ作ったからやろう!」


アストルフォはノリノリでくじを英霊たちに配っていく。同じく逃げられなかったアルジュナやジークフリート、サンソンなども巻き込まれているほか、よく分かっていない様子のカルナや李書文、ベオウルフなどもいた。
分かっていながらニコニコとしている天草や、分かっていないがとりあえず酒を飲んでいる景虎と長可など、もうゲームが成立しなさそうな者たちもいる。ただ、アーサーは例によってこういう場にはいない。
日常的なコミュニケーションはするものの、大勢の飲み会には、アーサーだけではなくアルトリアも参加しないのだ。恐らく、円卓の騎士たちが気兼ねなく楽しめるようにという配慮と、どう振る舞えばいいのか分からないということもある。
おかげでガウェインら円卓の騎士たちもノリノリでくじを受け取っていた。


「よーし行き渡ったね!じゃあ早速!マスターだ〜れだ!」


アストルフォがかけ声をすると、すっと手が上がった。まさかのアルジュナである。幸運値の高さが災いしたようだ。


「おっ、アルジュナじゃん!じゃあマスター命令出して!」

「マスター命令、ですか…擬似的とはいえマスターのような振る舞いをするなど…」

「随方毘尼だよ〜アルジュナさん!」


躊躇っているアルジュナに、三蔵はそう声をかけた。仏教用語で、宗教の教えや実践であっても、その土地や時代のルールに適したものにする、という考え方だ。郷に入っては郷に従う形で信仰しろという教義はなかなか先進的だ。
アルジュナたちはヒンドゥーの系譜だが、三蔵に言われてしまえば無碍にもできない。仕方なく、アルジュナは少し考えた。


「…それでは、3番は5番と7番に水を」


奇数を選ぶのが彼らしい。3番のくじを持っていたのはベディヴィエール、5番と7番はギルガメッシュ王たちである。
給仕のごとく優雅な所作で水を運んできたベディヴィエールと、それを受け取るキャスターとアーチャーのギルガメッシュ。まったく違和感がない。こんなところまで幸運値の高さが発揮されていた。

唯斗は左端の席に座っているため、右隣にいるロビンと正面のビリーに、今のうちに逃げられるか打診することにした。



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