長編番外編−マスターゲーム3
そしてちょうどいい感じに終わりそうな気配がしたというのに、アストルフォは次のマスター決めに入る。だがここまでひどい恥をかかされたのだ、これ以上恥ずかしいことなどないと考えれば逆に余裕が出るのではないか。
「お、次のマスターは私ですか!」
くじを持っているのは牛若丸で、すぐに指示を出す。
「12番が2番の膝に座る!」
見覚えのある数字に、唯斗は恐る恐るくじを確かめて、12番と書かれていたことに絶望した。考えが甘すぎた。しかも2番が女性だったらどうすればいいのだろう。もちろん、サーヴァントだから身体的な問題はないが、他はすべて問題だ。
「我が2番だ」
サアッと内臓が冷めたような感じがした。まさかの英雄王である。よりにもよってそこか、と唯斗は本日の自分の運を呪う。
「あれ、12番だれぇ〜?」
「あー…不幸な少年がここにですねぇ…」
ロビンは先ほどと同様、唯斗の腕を勝者のように掲げた。普通に敗者である。
ランサーは笑い転げており、英雄王も愉悦を前面に浮かべている。
「疾く来るが良い、耄碌の我を落とした毛並みを見せてもらおうではないか」
「だ・れ・が耄碌だ青二才」
ギルガメッシュは口元をひくつかせるが、一方で、面白いことになったというのは変わらないようだ。
唯斗は仕方なく、英雄王のところまで行き、そしてその膝に腰を下ろした。
英雄王の右足の太ももあたり、黄金の甲冑が覆っていて冷たいそこに座ると、上裸であるギルガメッシュはそのまま唯斗の肩を抱き寄せた。膝の上にいてもなお身長差があり、そのためにすぐ目の前に端正な顔が迫る。髪を下ろしているのはキャスター霊基と同じはずなのに、どこか幼く見えるのは年齢のせいか。
さらに悪いことに、このまま次のゲームに進んでしまい、マスターのくじを引いた荊軻はへべれけながら命令を出す。
「ヒック…5番が9番に晩酌せよ」
「ふはははは!これが黄金律!!」
「なんで……」
5番は唯斗、9番は英雄王だ。まさにこれが黄金律というやつなのだろう。謎に再び「おお〜」という拍手が起きる。どや顔の英雄王に、唯斗は黄金律の無駄遣い過ぎて感情が死んだ。
唯斗はもうやけくそで、テーブルに置かれていた古代のものらしい酒の入った杯を、英雄王が手に持ったアラバスターのカップに傾ける。
麦酒のようだが、それを注ごうとすると、思いのほか注ぎ口が浅い杯は横からも酒が零れてしまい、唯斗の手から腕を伝った。
さすがにもう礼装ではないため、普通のシャツであり、袖を捲った腕に酒が垂れていく。
「うわ、悪い」
「ほう、この高い酒をこぼしておきながら『悪い』で済むと?」
「えっ」
英雄王はニヤリとすると、突然、腕を伝う酒の水滴に舌を這わせた。素肌を舐め取る熱い舌の感覚に、ぞわりとしたものが背筋を駆け上がる。
「ひっ、ん、ちょ、なにして、」
慌ててのけぞった唯斗だったが、もともと収まりの悪い膝の上に乗っていたこともあり、姿勢がぐらついてさらに杯から酒が零れた。挙げ句、後ろに倒れそうになる。
「う、っわ!」
「…まったく、何をしておるのだ貴様」
唯斗を呆れながら受け止めてくれたのはキャスターのギルガメッシュだった。ギルガメッシュは盛大に零れた酒を見てため息をつく。
「やれやれ、世話の焼ける小間使いよ」
そう言うなり、ギルガメッシュはシャツのボタンを一つ外し、酒が零れた鎖骨をするりと撫でた。
「ぅあッ、ちょ、おい…!」
ニヤニヤと同じような表情をするギルガメッシュたち、タブレットを高速でタップする刑部姫、やいのやいのとはやし立てる英霊たち、憐憫の目で見つめるロビンやジークフリートなど常識人たち。サンソンやディルムッドはそろそろ割り込んでくるだろうが、それはそれで恥ずかしいことになるのが目に見えているため、唯斗はついに最後の手を使った。
「〜〜〜!令呪を以て命じる!助けに来いアーサー!」
そう言った直後、食堂に猛烈なスピードで駆けてきた騎士王が現れた。特に息を切らすでもなく颯爽と現れたアーサーは、ギルガメッシュたちに挟まれる唯斗を速やかに回収する。
「おっ、モノホンの王様じゃーん!」
からりと楽しそうに言った清少納言に、ギルガメッシュたちも「我も本物だわたわけぇ」とキレている。
「さて、エミヤ殿からあらましは概ね聞いているよ。僕を呼ぶのが随分と遅かったね?」
「…え、この流れで怒られるの俺?」
「怒ってはいないよ。ちょっと分からせるだけさ」
「……は、ちょっそれ、待っ、」
にっこりと笑ったアーサーは、有無を言わさず唯斗を連れて食堂を後にする。明日はオフであるため、どう考えても足腰立たなくなるやつだと唯斗でも理解できる。
なお、腹いせに円卓3人とロビンには、マーリンによって過去唯斗が描いたキメラ犬のイラストが延々と迫ってくる悪夢を見せてやったのだった。