Sunset Undead−2


二日後、普段世話になっている英国の民間警備企業C4Sから派遣された傭兵がジュネーヴにやってきた。
アフリカに現地調査に行くときは必ず傭兵を雇っているが、今回はフランスヴィルという治安の良い場所に留まるつもりのため、一人だけである。

ジュネーヴ市内の高級ホテルのロビーに降りると、すぐに向こうからやってくる。こちらの顔写真は控えているからだ。


「あなたがドクター・雨宮ですね。私はパーシヴァル、C4Sから派遣された傭兵です。しばらくの間、よろしくお願いいたします」


傭兵と会うのはよくあることなのに、唯斗は思わずポカンと見上げてしまった。それもそのはず、パーシヴァルという青年は190センチを超える巨躯であり、筋骨隆々の大柄な青年だったためだ。しかも輝く銀髪に精悍な顔つきもあって、ロンドンの金融会社に勤めていると言われても違和感がないようなエリート感があった。
この一流ホテルであっても人目を引いている。


「あ、あぁ、俺は雨宮唯斗。気は楽にしてくれ、あんま堅苦しいのは息がつまる」

「おや、そうかい?では遠慮なく。今回の任務はガボン共和国内での護衛と聞いているが、相違ないかな」


パーシヴァルは爽やかに微笑むと態度をやや崩す。これは傭兵などやらずとも儲かる仕事が他にたくさんあるのでは、と、頬を染める女性たちの様子を見れば思ってしまう。
ただ、当然のことながらどんな仕事を望み、そして適性があるかは個人差でしかない。そういうことは言わずに、唯斗はただ仕事の話だけに徹することにした。


「問題ない。紛争地帯でもないフランスヴィルだ、退屈な思いさせるかもしれないけどよろしくな」

「私もあなたの活躍を知っているよ、ノーベル医学生理学賞では最年少の受賞となった天才学者だろう。今回のエボラ出血熱のアウトブレイクで調査を行うという、人道的にとても素晴らしい仕事に随行できるのは光栄だ」


なんとも満点の回答である。とりあえずコミュニケーション能力に問題はなさそうだし、この見た目なら一緒にいる限りまず襲われることもないだろう。
当たりを引いてよかった、と思いつつ、唯斗は詳細な話をするべくラウンジに向かった。


それからさらに二日後、唯斗とパーシヴァルはパリから飛行機でガボン共和国首都リーブルヴィルに飛び、乗り継いで第三の都市フランスヴィルにやってきた。

ガボンはアフリカでも裕福で治安の良い方の国ではあるが、コンゴ民主共和国やコンゴ共和国から不法移民や難民が流入しているため、徐々に治安は悪化している。

なぜフランスヴィルにやってきたのかと言うと、ここにはバイオセーフティレベル4(BSL-4)の施設があるためだ。
ウイルスなどの病原体は、それを取り扱うための危険度がランク付けされており、1から4までに分類される。最も危険なものはBSL-4であり、ペストや天然痘、エボラウイルスなどが当てはまる。

そしてBSL-4に分類される病原体を取り扱うためには、専用の規格を揃えた施設でなければならず、アフリカにはたった2か所しかない。その一つがガボンのフランスヴィルであり、もう一つは南アフリカのヨハネスブルクにある。
なお、日本では東京の国立感染症研究所と茨城県の筑波大学に指定された施設が存在する。

コンゴ民主共和国で見つかったエボラウイルスはこのフランスヴィルに検体として持ち込まれており、唯斗はここでその研究を行うことにしている。
宿泊するのは市内の数少ないホテルのうち、最も高級なものだが、それでも質素で決して綺麗なところではなかった。だがそんなものは慣れている。

ホテルの部屋はリビング付きの寝室が二つあるタイプのもののため、パーシヴァルも同じ部屋に泊まっており、ホテルから研究センターまでずっと一緒にいる。唯一、唯斗が研究センターにいる間だけホテルに戻って待機しているが、送り迎えは必ずパーシヴァルが車で行っていた。



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