Sunset Undead−4


「興味深い、そういう仕組みだったんだね。そしてその120人分の結果が今日出揃ったんだろう?」

「あぁ。結果、相同性は80%…エボラウイルスは、ザイールエボラウイルスってのを軸にして6種類あって、人に感染するのは5種類ある。相同性80%となると、これは7種類目として学会に報告することになりそうだ」


今回、混乱する現地の報告では、恐らくイトゥリ州ナーリュイが最初のケースだろうと考えられていることから、ナーリュイエボラウイルスとでも呼ぶことになるかもしれない。


「悪質な変異なんだろうか」

「恐らく。まず変異スピードが従来型より極めて速い可能性がある。症例も出血熱を伴うもので、かなり免疫系の暴走…サイトカインストームが激しい。まるでクリミア・コンゴ出血熱だ」


エボラ出血熱とよく呼ぶが、実際には出血熱症状を伴わないことの方が圧倒的に多いため、現在はエボラウイルス病と呼ぶ。

今回のケースでは出血熱を発症している。その症状は、ウイルス性出血熱で最も出血症状が激しいクリミア・コンゴ出血熱に近い。

この出血熱とサイトカインストームは大きく関連するものだ。


「人の細胞は、ウイルスに感染すると自らを免疫細胞に破壊させるために合図を出す。これをサイトカインと呼ぶ。サイトカインは目印であり、なおかつ、それを受け取った免疫細胞を活性化させる作用がある」

「そんな仕組みだったんだね、人の体とは」

「そう。でも、ウイルスによってはこのサイトカインがあまりに作用しすぎて、免疫細胞が暴走状態になることがある。暴走した免疫細胞は、関係ない細胞まで破壊し始める。これがサイトカインストーム。ものによっては、免疫細胞が毛細血管を破裂させて内出血を起こし、肌がそれによって壊死して黒ずむことがある」

「っ、そうか、ペスト…」

「正解。サイトカインストームで毛細血管が破裂し肌が黒く壊死するするほどの症状が出るのがペスト、別名・黒死病だ。ウイルス性出血熱では内臓や血管にひどい損傷が出て、それが喀血や血尿、血便につながって、高熱とともに体中から出血するようになる。それが出血熱という症状だ。エボラの場合、最終的に内臓が機能を停止する多臓器不全に陥って死に至る」


過去猛威を振るったペストやスペイン風邪インフルエンザで見られたとされるものでもある。出血熱においては、血管の損傷による内出血が紫斑を肌に引き起こし、吐血や血便に至るような症例が多い。
近い時代の例では、香港インフルエンザでもサイトカインストームが発生した可能性があるとされる。


「免疫系が強い若者ほどサイトカインストームによる致死率は高まる。アフリカは若者が多いから、それだけ死者も増えやすいんだ」

「ただでさえ衛生環境も悪い状態でそんな苛烈な症状が出るとなると…なるほど、本当にひどい病だね」

「近いうちに世界的大流行が危惧される鳥インフルエンザ、H5N1という型のものでも想定されているな。そういう新型インフルエンザを含め、感染症に対するゲノム解析結果を共有するデータベースがGISAIDだ。2008年のインフルエンザ流行時に設立された。今回のエボラでも活用させてもらった」


2008年に世界的に流行したインフルエンザに関して、そのゲノム解析結果を共有することで変異状況を世界中でモニタリングし、適切な対応を行おうとしたコンソーシアムがGISAIDだ。
すでに唯斗が得た結果も登録済みである。

また、WHOやリヨンにも、今回の結果から新しいエボラウイルスが発見された可能性があると報告してある。


「さすがノーベル賞受賞者だ。大発見だろう?」

「…、ウイルスが分かっても、それだけじゃ人は救えない。もともと治療法が確立されていない病だ、きっとまだ多くの人が死ぬ」


唯斗が一番危惧していたのはそこだった。恐らく、既存の治療法や投薬は一定程度効果を発揮してくれるはずだが、内戦状態のイトゥリ州ではろくな防疫は期待できない。
何より、これがナイル川を下って周辺国に広がることが、最も懸念されることだった。



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