Sunset Undead−5
唯斗が新種のエボラウイルスの可能性を提言してから1週間、コンゴ民主共和国内での感染者は過去最大級の500名を超えている。死者数は300名を超えており、イトゥリ州だけでなく隣の高ウエレ州でも感染が広がっていた。
すでにコンゴ民主共和国は第11次アウトブレイクを宣言しており、WHOや国境なき医師団の活動も活発化している。
相変わらず、フランスヴィルの熱帯性の湿度と気温に悩まされながらも、唯斗はシャワーを浴びて上半身裸のままリビングルームに入る。ソファーにいたパーシヴァルは少し呆れたようにこちらを見上げた。
「唯斗、風邪をひいてしまうよ」
「一日のほとんどを無菌室で過ごしてるんだぞこっちは」
防護服を着て研究するため、ゴムで締める首や手首はかぶれてしまいそうだ。シャワーを浴びた体にエアコンの生ぬるい冷風が心地よい。
パーシヴァルへの遠慮というものは、3週間に渡るホテルでの共同生活でかなり薄れていたし、パーシヴァルも唯斗を名前で呼んで気安く接していた。
「まったく。そうだ、ジュースを用意しておいたんだ。飲むかい?」
「ありがと…って、そこまでしなくていいんだぞ、傭兵であって使用人でも秘書でもねぇんだから」
「気にしないでくれ、やりたくてやっていることだよ」
パーシヴァルは本来傭兵だ。だが、傭兵らしいことをするのはホテルの外で行動するときだけであり、研究に没頭する間とホテルの部屋にいる時間で一日のほとんどを消費する今、傭兵らしいことは皆無だ。
それでもパーシヴァルは爽やかに笑うと、唯斗の頭をひとつ撫でてからキッチンに向かい、冷蔵庫のジュースをコップに注いでくれる。
コップを受け取って、冷えたオレンジジュースを飲みながら、僅かに残る果実を嚥下していると、パーシヴァルはタオルケットを持ってきて唯斗の肩にかける。
背後から肩にタオルケットをかけられたことで、一時的に後ろから抱き締められているような態勢になり、改めて体格差を感じた。
「…やっぱパーシヴァルってでかいよな」
「はは、今更だね」
「改めて思った。筋肉もすごいし…」
唯斗の言葉を聞いて、パーシヴァルは「ふむ」と言ってから、おもむろに唯斗の腹を撫でた。服を着ていないため、腹筋をじかに撫でられる。
「う、わっ、」
「君も細いが、運動もある程度しているのかな?無駄がない均整の取れた体つきをしている」
「…、軽くジムには通ってた、それこそこういうアフリカでの研究も多いし」
「研究者でこれだけしっかりしていれば十分さ。まぁ、もう少し食べるべきではあるが。とにかくたくさん食べる、というのも大事なんだぞ」
そう言いつつ、パーシヴァルは唯斗の腹から腰にかけてをなぞった。ぞわぞわとしたものが駆けあがり、小さく震える。
「んっ、ちょ、パーシヴァル…!」
「っ、すまない」
唯斗の声にハッとして、パーシヴァルは体を離した。落ちそうになったタオルケットを掴んで、顔に上がった熱を冷ますようにジュースを一息で飲んでから、パーシヴァルをちょっと睨んだ。
「…、唯斗、そうやって男を煽るような態度をしてはいけない」
「してねぇわ」
すると、パーシヴァルはとんでもないことを言いだした。いったい何を言っているのかと軽くどつくが、強靭な筋肉によって逆にこちらが弾かれた。
確かに、リヨンの研究所ではたまに尻を触られることもあったが、単なるボディタッチに過ぎない。
パーシヴァルは弾かれた唯斗を支えながら腰を抱き寄せる。
「いや、ちゃんと真面目に考えた方がいい。ストレートの私から見ても、君はとても魅力的だ。特に今は男と二人で長期間寝泊まりしているのだから」
「…なに、じゃあお前は俺のこと抱けるわけ?」
「抱けるかどうかと聞かれれば答えはYesだ。まぁその…恥ずかしながら、そういう経験はあまりないのだけれど…」
むすっとして聞けば、パーシヴァルは急に顔を赤くして視線をそらした。いきなり純朴な態度をされると、唯斗も反応に困る。
「…別に、恥ずかしいことではないだろ。そういうことを大切にしたいんなら、その気持ちも尊重されるべきだ。何よりプライベートなことだしな。まぁ、取り急ぎこれ以上はセクハラとして報告するぞ」
「すまない…あぁ、だが、ありがとう。少し気にしていたんだ、周りの男性の友人とあまり話が合わなくて…そう言ってもらえるのは嬉しい」
パーシヴァルは軽く謝りながらも手を離す。一方で、なぜかホッとしたように礼を言ってきた。
傭兵という職業を考えれば、周りの男性とそういう猥談になったとき、パーシヴァルのような誠実な人にはストレスだろう。だがその価値観は、恥ずべきものなどではない。
「ま、パーシヴァルっぽくていいんじゃないか。どこまでも誠実で優しいもんな」
「それは君もだろう、こうやって人々の命を救うための研究に心身を捧げている。とても素晴らしい能力を持ちながら、亡くなった一人一人に思いをはせる優しさ、そうしたものを見ているから、私も君に尽くしたくなるんだよ」
そんな唯斗の言葉に対して、パーシヴァルは思った以上の言葉を返してくれた。なんだか気恥ずかしくなって、つい、「そっか」と素っ気なく返す。それにも小さく笑って、再びパーシヴァルは唯斗の頭を軽く撫でた。